連載小説 須佐の杜ラプソディ|第十話「増長天」

第十話「増長天」

安倍晴明に団子をご馳走になった津上邦明は、晴明につられて席を立つ。

晴明は立ち上がると津上に声をかけた。

「こんな所で男二人突っ立っていてもしょうがない。私が案内してあげましょう」

「案内って、何処にです?」

「あそこです」

晴明は色白の細い指で、大きな神社のような建物を指さした。

「あの建物は何ですか?」

「見ての通り、神社のようなものです」

晴明はニヤリと微笑むと、津上を連れて、人ごみの中を歩きだした。

参道のような一本道を二人はゆっくりと歩いていく。

前を歩く二人組の男たちは顔に狐の面を被っていた。

可笑しい。この参道を歩いている者たちは、明らかにこの世の者ではないような気がする。

自分はいったい何処に連れて来られてしまったのだろう?

津上の心に不安がよぎる。

その時、前方から声が聞こえた。

津上たちの前を歩いていた狐の面を被っていた二人組が、さっと道を開ける。

目の前に、立派な甲冑を着た大男が仁王立ちになって立っていた。

その顔は、鬼のように恐ろしい。

髪は、天に上るように逆立っていた。

「お前は、この世界の者ではないな。何者だ?」

大男は、声を張り上げる。

横にいた晴明が、すっと津上の前に出た。

「これはこれは、増長天さま。この若者は、わたくし安倍晴明の客人でございます。高天さまからいっときの間、お預かり致しました」

「おぉ、晴明か。その者を高天から預かったんだな?では、俺が探していた者に間違いない。もう一人、女性は預かっておらぬか?」

大男は、周りをギョロリと見渡す。晴明は涼しげに問いに答えた。

「はて、女性は預かっておりませぬな。確か女性を探しに行くと申されておりましたが・・・。何か不具合でもありましたか」

「うむ。今日の式典に招かれている客人が二人足りないのだ。もう時間が迫っておる。われわれ四天王が二人を探しだす任務をおっている」

「四天王の四人とも駆り出されているのですか。大ごとになってますな」

晴明は顔をしかめる。

増長天は大げさに頷いた。

「実はな、晴明。それだけではないのだ」

「ほう」

「この式典にかこつけて、邪悪な者たちが紛れ込んでいるとの情報が入った。その者たちの行方も、我々が追っておる」

「なるほど。それで、四天王がそろって駆り出されている訳ですね。して、どのような者たちなのです?」

「斉天大聖の一味どもだ」

「斉天大聖?あの石猿ですか。それは厄介な・・・」

晴明は、小さなため息をついた。