連載小説 須佐の杜ラプソディ|第一話「須佐神社」

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第一話「須佐神社」

佐世保市光月町のホテルロータスハウスを横目に、五差路の交差点を渡った津上邦明は、須佐神社方面に向かって、ゆっくりと直進する。

空には、雨が今にも降り出しそうな灰色の雲が広がっていた。

一本道を歩いていくと、目の前に朱色に塗られた須佐神社の鳥居が見えてきた。

津上は月に一度、この神社に訪れる。

気がつくと、鳥居の前に一人の変な着物を着た老人が立っていた。

老人がこちらをじっと見ている。

こういう人とは絡まないほうが良い。

愛想よく微笑む老人に向かって、すれ違いざまに軽く会釈をした津上は、先を急ぐように須佐神社の鳥居を潜った。

「須佐神社にお参りかな?」

老人は、津上に声を掛ける。

突然話しかけられた津上は、思わず立ち止まった。

「えぇ、ここはうちの町内の氏神様なので」

「感心じゃのう。最近の若いもんは、神仏を中々信じておらん。この世の中には、自分の頭の物差しでは測れない事が沢山ある。目に見えるものしか信用せんのは、如何なものか」

老人は、小さく頷いた。

「そうそう、あんたには、妹さんがおるじゃろう」

「えっ、知佳のお知り合いの方ですか?」

「いや、妹さんがトンネルの中で待っておるでな。それを伝えに来た」

「知佳が、トンネルの中で待ってる?」

津上は顔をしかめる。

妹は、入院中で、とても外に出られる状態ではなかった。

「その先にある、須佐トンネルの中じゃ。そこで待っとる。さぁ、一緒に行こうじゃないか」

老人は話終わると、さっさと鳥居の方へ歩き出す。

津上は、慌てて問いかけた。

「どこに行くのでしょうか?」

「今、説明したじゃろう。須佐トンネルの中じゃ」

「いや、妹はそこにはいないでしょう」

「だからさっき言ったじゃろう。この世には、自分の頭の物差しでは、測れない事もある」

老人は右手を差し出す。

津上は、驚き目を丸くする。

老人の掌に、妹が何時も身につけているハート型の指輪が光っていた。

つづく


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