烏帽子岳の孫悟空「第四十七話」

烏帽子岳の孫悟空

捜査四日目
平成二十九年九月二十三日、AM9時20分

巨大な猿と二郎神の戦いもいよいよ終盤。
佐世保の街は建物が崩壊し、大惨事となっている。
強烈なジャーマンスープレックスをくらい倒れこんだ二郎神に、孫悟空が馬乗りになってパンチの連打を浴びせ続けた。
大の字に倒れた二郎神はピクリとも動かない。
孫悟空は、己の勝利を確信したように勝ち誇った笑顔を浮かべると、最後の一撃を繰り出そうと、右腕を大きく振り上げた。
その瞬間、佐世保市内の上空がキラリと光った。
得体の知れない物体が、空から落ちてくる。
金色に輝く輪っかのような物が、もの凄いスピードで地上へ落下してきた。
上空の輝きに気が付いた二郎神は、大きく目を見開いた。
金の輪っかは一直線に、孫悟空の頭上めがけて墜落する。
鈍い衝撃音が、佐世保市内に響き渡った。
孫悟空の動きが、一瞬にして止まった。
右手を振り上げたまま、あまりの衝撃に目を回す。
次の瞬間、孫悟空は痛そうに頭を抱えて倒れこんだ。

「あの金の輪っかは、金剛琢というものです」

倒れこむ巨大な猿の姿を見て、森吉祐子は静かに呟いた。
祐子は三村警部と小島警部補と共に、佐世保市防災危機管理局の豊川課長が宿泊している旅館「湊旅館」の一室で、テレビ画面に釘付けになっていた。
八畳の和室の部屋で、四人はテーブルを囲みながら、テレビを眺めている。
テーブルには、旅館の自販機で購入した缶コーヒーと、昨夜の酒のつまみの残りが置かれていた。

「金剛琢? 初めて聞く名前ですね」

豊川は、サキイカをつまみながら、興味津々に祐子の顔を覗き込む。
三村はのんびりと熱い缶コーヒーを口に含んだ。

「西遊記の物語に出てきます。孫悟空を討伐するのに苦戦していた二郎神に加勢するため、観音菩薩が助言して太上老君という神に、黄金の輪っかを投げさせるんです」

祐子の説明に、豊川は感心したように頷く。

「なるほど。そして見事に孫悟空の頭に命中する訳か。しかし、君は本当に西遊記の話に詳しいね」

二人の話を聞いていた小島も、思わず口を挟んだ。
三人はテレビ画面を見ながら、西遊記の物語について盛り上がる。
その横から、三村が不思議そうな表情を浮かべ、話に割り込んできた。

「佐世保に巨大な猿が現れた。貴女はその巨猿を孫悟空と呼び、宇久島に渡って二郎神とやらを召喚し、海を真っ二つに割らせて孫悟空の討伐に向かわせた」

三村は独り言のように呟きながら、祐子の目を見据える。
祐子は三村の鋭い視線に動じず、勝気に睨み返した。
小島と豊川は、二人の睨み合う姿を静かに見守っている。
三村は呆れた様に、ため息をついた。

「で、貴女はいったい何者なの? これ、普通の女子高生のなせる技じゃないでしょ」


孫悟空と二郎神は、四ヶ街アーケードと、シューズセンター通り沿いにそれぞれ倒れたまま立ち上がれない。
孫悟空は、頭を痛そうに抱え込んでいる。
二郎神は仰向けのまま大の字になっていた。
ホテルロータスハウスの屋上から世紀の戦いを見守っていた秋山警部補が、思わず呟いた。

「これ、先に立ち上がった方が勝つな」

「えっ、なんでそうなるんですか?」

部下の守口巡査部長が、不思議そうに問いかける。
秋山は、鋭い視線で守口を睨みつけた。

「別に深い根拠はない。僕の直感」

「ひぇ〜。そりゃ、ヤバイや。こういう時の秋山さんの直感は、本当に当たっちゃいますからね」

守口は、安定の軽口を叩く。
二人の会話を黙って聞いていた五反田刑事が、突然ノックダウン中の二郎神に向かって叫びだした。

「二郎神〜。立て〜。立ち上がるんだ〜」

五反田は声を枯らしながら、必死に叫び続ける。
数分後。
五反田の声援を受けた二郎神が、倒れている孫悟空を横目に、ゆっくりと立ち上がった。
孫悟空は立ち上がることが出来ず、痛そうに頭を抱え込んでいる。
二郎神はいつの間にか、右手に白いお札を握りしめていた。
二郎神は孫悟空のそばに近寄っていく。
御札を持った右手を、そっと差し出す。
二郎神は孫悟空の頭の上に、白いお札を張り付けた。
孫悟空の動きがピタッと止まる。
カッと目を見開いた孫悟空は、顔を引きつらせる。
突然、孫悟空の頭から、白い湯気のようなものが立ち昇った。
孫悟空は、狂ったように手足をバタつかせながらもがきだす。
二郎神は、その姿を仁王立ちの姿のまま、じっと見下ろしていた。
孫悟空の体中から、次々に白い煙が吹き出してくる。
孫悟空は苦しみながら、大きな雄叫びをあげる。
ナメクジが全身に塩を浴びせられたように、孫悟空の体が見る見るうちに縮んでいく。
二郎神を包み込む金色の光が、強烈に輝きだす。
その瞬間、孫悟空の体は白い煙と共に、溶けるように消えてしまった。
二郎神は、消滅する孫悟空の姿を最後まで見届けると、ゆっくりと顔を上げて天を見上げた。
空には、二郎神の勝利を讃えようと、沢山の鳥たちが集まっている。
二郎神は、ホッと腕を撫で下ろした。
佐世保市の街は瓦礫の山と化している。
崩壊した街をギョロリと見渡していた二郎神は、ホテルロータスハウスの建物を見つけ目を止めた。
八階建てのホテルの屋上に、天界の仲間の哪吒太子の気配を感じる。
二郎神は、ホテルの方に向かって合図するように大きく手を挙げた。

「うひゃ〜。二郎神がこっちに向かって手を上げてますよ。ありがとう、二郎神〜」

守口は思わず歓喜の声を上げる。
秋山は、感謝の気持ちを込めてそっと手を合わせる。
五反田は、嬉しそうに何度も何度も手を振り返した。
二郎神は三人の姿を確認すると、ゆっくりと手を下ろす。
その瞬間、いつの間にか二郎神の頭や、肩に停まっていた沢山の鳥たちが、一斉に真っ青な空に飛び立った。
二郎神は、静かに目を瞑る。
体が、ボロボロと崩れ出す。
体を覆っていた金色の光が、目が眩むほど一気に輝きを強めた。
光の色が、金色からオレンジ色に変わった。
人々は、驚きの声を上げる。
二郎神の姿は、お役目御免と言わんばかりに、瓦礫のように崩れ去る。
巨大な神様は、あっという間に土に戻ってしまった。
二郎神の立っていた場所に、大きな築山が出来ている。
人々はのちに、この山を二郎塚と呼んだ。

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西洋文化の漂う、坂の街、長崎市。余命三ヶ月と宣告された秋山は、偶然訪れた神社で、「龍神の姿を見た」と語る女性と出会う。
片や1980年代、高度成長著しいバブル絶頂の大分市。中学二年生の卓也は、仲間たちに囲まれ、楽しい学校生活を過ごしていた。そんなある日、彼は幼馴染の部屋で衝撃的な場面を覗き見ることになる。
二つの物語が重なり合う時、この物語は驚愕のラストを迎える。

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