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烏帽子岳の孫悟空「第十八話」

烏帽子岳の孫悟空
目次

烏帽子岳の孫悟空「第十八話」

捜査二日目
平成二十九年九月二十一日、PM19:11

捜査二日目の夜。
大島署長は、捜査一課の四人の刑事たちとともに、行きつけのカフェ「喫茶モンアミ」に訪れていた。

喫茶モンアミは創業四十年の老舗喫茶店で、佐世保市では有名な人気店。

看板メニューの珈琲ゼリーは大人がハーフサイズでも食べきれず残してしまうほどの大きさで、苦みのある珈琲ゼリーの上に濃厚なバニラアイスがグラスからはみ出すほど盛り付けられている。

レジ前に設置されているショーケースには、マスターの手作りケーキが所狭しと並べられていた。

ここには学生や成人のカップルはもちろん、観光客も多く訪れるため佐世保市の観光スポットの一つにも数えられる。

夕方のミーティングで手作りのドーナツを食べすぎた五人は、そんな喫茶モンアミで軽めの夕食を取っていた。

縦長の店内は、四人掛けのテーブルが五脚に、カウンター席が六つ。

秋山たちが来店したと同時に二組のカップルが会計を済ませ、店内は長崎県警の貸切と化していた。

秋山警部補と守口巡査部長は、大島と一緒にカウンター前のテーブル席に腰掛けている。

西東警部は五反田刑事と二人で、カウンター席に陣取っていた。

白い壁に黒色の柱、テーブルや家具も全て黒で統一された店内は、落ち着いた空間と昭和の純喫茶の雰囲気をかもし出している。

紺と白のボーダーの長袖Tシャツに黒いエプロン姿の若い女性が、五人がオーダーしたドリンクや食べ物を次々に運んできた。

ホールスタッフは彼女一人のようだ。

もう還暦を過ぎているであろうマスターは、カウンター奥の厨房で調理作業に追われている。

秋山と守口はナポリタン、西東と大島はツナサンドセット、五反田はシチューセットに名物の珈琲ゼリーも注文していた。

「大島署長、ちょっと宜しいですか?」

秋山はケチャップがたっぷりとかけられたナポリタンを頬張りながら、同じテーブルに座っていた大島に話しかける。

大島は、珈琲を飲みながら小さく頷いた。

「何かありましたか?」

「実は、聖文女子学園を経営している大川内家について、少し情報が欲しいのですが」

「えっ、大川内家の情報ですか。いったい何を知りたいのです?」

「別にたいした事じゃないんですけどね。大川内家にまつわる話で、何か猿に関する情報がないかと思いまして」

「えっ、猿?」

大島は一瞬、困惑な表情を浮かべる。

西東はカウンター席で、レギュラーサイズの珈琲ゼリーを美味しそうに頬張っている五反田を横目に見ながら、二人の話にじっと耳を傾けていた。

「どうもこの事件のキーワードは、猿のような気がするんです」

秋山はニッコリ微笑みながら、大島の目を見据える。

大島は蛇に睨まれた蛙のように顔を強張らせた。

丁度そこへ、厨房からカウンターに出てきたマスターが、秋山に声をかけた。

「大川内家の猿の話? それって、美猴憑きの話ですよね。あの一族は、昔から猿に憑りつかれた一族だからね」

「えっ、猿に憑りつかれた一族?」

秋山は思わず、隣でナポリタンを食べていた守口と目を合わせる。

厨房のオーブンレンジから、ケーキの焼き上がりを知らせるブザーの音が聞こえてきた。

マスターは秋山に向かって大きく頷くと、厨房へ慌てて戻って行った。


「大島署長、今日はお一人様じゃないんですね」

厨房作業を終わらせたマスターの中山慎介は、カウンターから上機嫌に大島に話しかけた。

ロマンスグレーの髪に、べっ甲縁の眼鏡をかけた穏やかな顔立ち。

赤と緑のタータンチェックのネルシャツにベージュのチノパンというカジュアルな出で立ちは、落ち着いた服のセンスの良さを感じさせる。

懐の深さと温かみのある笑顔には、四十年以上老舗の看板を守ってきた貫禄がみなぎっていた。

大島は四人の刑事たちを、慌ててマスターに紹介した。

「今日は長崎県警本部、捜査一課の刑事さん達をお連れしました。例の失踪事件の捜査で、佐世保にお越しになってます」

「県警本部の捜査一課ですか。大島署長と違って、エリート部隊の方たちですね」

マスターは冗談交じりに、常連客の大島に微笑にかける。

大島はマスターの冗談に、たじたじの様子だった。

「そう言えばニュースで見たんだけど、今朝、行方不明だったタクシーが見つかったんだって? 報道では全然触れてなかったけど、一緒に失踪中だった二人の女子高生達もタクシーの中から見つかったの?」

「捜査中なんで、あんまり詳しくは話せないんですが・・・。女子高生もタクシーの運転手も、まだ見つかってませんね」

「そうなんだ。それじゃあ、捜査も全然先に進まないよね」

大島とマスターの会話を黙って聞いていた秋山は、ナポリタンを食べ終えると、珈琲の入ったマグカップを片手にカウンター席へ移動する。

秋山は西東に目配せすると、マスターに声をかけた。

「マスターすみません。先ほどの大川内家の話なんですが、もっと詳しくお話を聞かせて頂けませんか」

秋山は、カウンター越しに店主の顔を覗き込む。

五反田は、秋山の隣で喫茶モンアミ名物の巨大な珈琲ゼリーをペロリと完食していた。

「さっきも話したけど、大川内家の先祖は元々美猿憑きを担当した一族なんだよね」

「美猿憑き?」

「そう、美猴憑き。子供の頃、祖母から聞いた話なんだけどね。あの一族は先祖代々、烏帽子岳で悪さする美猿王を封印する役目を請け負っていた。まぁ昔からの古い言い伝えだけどね」

「えっと、美猴王っていったい誰のことなんですか?」

「あれ、美猴王を知らないの? まぁ、知らなくて当たり前か。美猴王より、もう一つの呼び名の方が有名だからね」

「もう一つの名前って、いったい・・・」

秋山は、興味津々にマスターに問いかける。

「美猴王には、色々な呼び名があるんけどね。一番有名な名前は・・・斉天大聖・孫悟空」

マスターは得意げに、にっこり微笑んだ。

「孫悟空のことですか」

秋山は、納得したようにうなずく。

「へえぇ。孫悟空って、そんなにいくつも名前を持ってたんですか。いやぁ、勉強になるなぁ」

カウンター席に移動してきた守口も、ビックリしたように話に割って入ってくる。

テーブル席には、秋山と守口の食べ終えたナポリタンの皿とともに、大島がポツンと一人残されていた。

大島は、何故かこの話から距離を取るように、黙り込んでいる。

その様子を、西東はチラチラと横目で観察していた。

「と、いう事は・・・その昔、烏帽子岳には孫悟空がいると、そう信じられていたんですね」

秋山の優しそうな目が、一瞬鋭くなる。

西東は、秋山の表情に反応するように、内ポケットから手帳を取り出した。

「烏帽子岳には、猿岩があるからね。昔の人々は、山で災いがおこると美猴王の祟りだと騒ぎ立て、猿岩にお供え物をして祟りを治めようとした。その祀り事を取り仕切ってたのが、大川内一族なんだよ」

「あれ、でも大川内家はクリスチャンでしたよね。孫悟空は三蔵法師の弟子ですから、仏教でしょう」

「そうそう、大川内家はキリスト教徒なんだよ。あの一族が経営している聖文女子学園もミッション系のスクールだから。あの一族は確か宇久島の出身だったはずだから、キリスト教の信者だってことも頷ける。五島列島の島々は、昔からキリスト教の信仰が根強い地域だったからねぇ。そう考えると、もしかしたら彼らは隠れキリシタンで、自分たちの信仰をカモフラージュする為に、美猴憑きをやっていたって事も考えられるよね」

マスターは持論を展開しながら、五反田の追加した珈琲をドリップする。

秋山はマグカップの珈琲を飲み干しながら、一つの疑問を投げかけた。

「その、美猴憑きっていう祀り事は、今でも大川内家が取り仕切ってるんですか?」

「いや、今更そんな迷信じみたことを信じる人は、流石にいないよね。昔の人はともかく、今の人達は美猴憑きって言葉すら知らないんじゃないかな。僕も長年商売やってるけど、この話を祖母以外から聞いた事がないから。まぁ、仮に山で土砂崩れがあったとしても、猿岩にお供え物をしたからって、どうにもならないもんね」

マスターはドリップした珈琲を、カウンター越しに五反田に差し出した。

「うわぁ、有難うございます〜」

追加注文したガトーショコラを口に含みながら、五反田は幸せそうに微笑む。

西東は、テーブル席に一人黙って座っていた大島の姿を、じっと見つめていた。

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やまの みき (著)
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