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鬼の形相の弁財天に問いかけられた牛魔王は、四天王に取り囲まれたまま、不気味な笑みを浮かべている。
津上は牛魔王のその牛のような姿を見つめながら、状況の把握に努めていた。
多聞天は自分のことを恵岸と呼んだ。
自分はいったい何者なんだ。
妹の知佳も、貞英という名で呼ばれていた。
妹はいったい何処にいるのだろう。
津上は混乱する頭の中を整理する。
牛魔王は、一瞬、弁財天を睨みつけると、大声で話し出した。
「もうすぐ、斉天大聖が目を覚ます。その時にその指輪がこちら側の手にあれば、ことがスムーズに進むと思ってな」
「孫悟空が目を覚ます?阿弥陀如来様の封印が、そう簡単に解けるとでも思っているのですか?」
弁財天は鬼の形相のまま、牛魔王に疑問を投げかける。
弁財天の迫力ある声に、津上は思わず唾液を飲み込んだ。
「我々は、斉天大聖の封印を解くための方法を人間界で手に入れた。今さら慌てても、もう手遅れだ」
牛魔王の笑い声が、部屋中に響き渡る。
その瞬間、四天王が一斉に腰に差していた刀を手に取った。
「ふん、もはやこの天界には用はない。その指輪は、いずれ我々が必ず手に入れてみせる」
牛魔王の姿があっという間に残像となり消えていく。
弁財天は四天王とそれぞれ目を合わせると、津上の方へと顔を向けた。
「これで、邪悪な侵入者は消え去りました。津上殿、ゆっくりとこの神殿で行われる式典をお楽しみ下され」
「あの、それよりも、妹はどうなりましたか?ちゃんと、無事に保護されているのでしょうか?」
津上の言葉に、多聞天が部屋の襖を指さす。
津上は、思わず襖の方へ視線を向けた。
す~っという襖の開く音とともに、女性の姿が現れる。
そこに、妹の津上知佳が立っていた。
「知佳、無事だったか?」
思わず駆け寄ろうとする津上を、多聞天が制するように両手を広げた。
「ならぬ。貞英は今から大切な用事がある」
「貞英って何ですか?そこにいるのは知佳でしょう」
津上は、思わず声を荒げる。
知佳は、にっこり微笑みながら、津上に話しかけた。
「お兄ちゃん、まだ思い出せないのね。私は先に行きます。お兄ちゃんも頑張ってね」
つづく
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