連載小説 須佐の杜ラプソディ|第二十話「知佳と貞英」

目次

第二十話「知佳と貞英」

鬼の形相の弁財天に問いかけられた牛魔王は、四天王に取り囲まれたまま、不気味な笑みを浮かべている。

津上は牛魔王のその牛のような姿を見つめながら、状況の把握に努めていた。

多聞天は自分のことを恵岸と呼んだ。

自分はいったい何者なんだ。

妹の知佳も、貞英という名で呼ばれていた。

妹はいったい何処にいるのだろう。

津上は混乱する頭の中を整理する。

牛魔王は、一瞬、弁財天を睨みつけると、大声で話し出した。

「もうすぐ、斉天大聖が目を覚ます。その時にその指輪がこちら側の手にあれば、ことがスムーズに進むと思ってな」

「孫悟空が目を覚ます?阿弥陀如来様の封印が、そう簡単に解けるとでも思っているのですか?」

弁財天は鬼の形相のまま、牛魔王に疑問を投げかける。

弁財天の迫力ある声に、津上は思わず唾液を飲み込んだ。

「我々は、斉天大聖の封印を解くための方法を人間界で手に入れた。今さら慌てても、もう手遅れだ」

牛魔王の笑い声が、部屋中に響き渡る。

その瞬間、四天王が一斉に腰に差していた刀を手に取った。

「ふん、もはやこの天界には用はない。その指輪は、いずれ我々が必ず手に入れてみせる」

牛魔王の姿があっという間に残像となり消えていく。

弁財天は四天王とそれぞれ目を合わせると、津上の方へと顔を向けた。

「これで、邪悪な侵入者は消え去りました。津上殿、ゆっくりとこの神殿で行われる式典をお楽しみ下され」

「あの、それよりも、妹はどうなりましたか?ちゃんと、無事に保護されているのでしょうか?」

津上の言葉に、多聞天が部屋の襖を指さす。

津上は、思わず襖の方へ視線を向けた。

す~っという襖の開く音とともに、女性の姿が現れる。

そこに、妹の津上知佳が立っていた。

「知佳、無事だったか?」

思わず駆け寄ろうとする津上を、多聞天が制するように両手を広げた。

「ならぬ。貞英は今から大切な用事がある」

「貞英って何ですか?そこにいるのは知佳でしょう」

津上は、思わず声を荒げる。

知佳は、にっこり微笑みながら、津上に話しかけた。

「お兄ちゃん、まだ思い出せないのね。私は先に行きます。お兄ちゃんも頑張ってね」

つづく

 

次回のお話
あわせて読みたい
連載小説 須佐の杜ラプソディ|第二十一話「助っ人あらわる」 【第二十一話「助っ人あらわる」】 アルバカーキ橋から駐車場に移動した町田探偵と古賀警部補の二人は、須佐神社へと車を走らせていた。 須佐神社には、女子高生神隠し...
 

五月のマリア Kindle版
西洋文化の漂う、坂の街、長崎市。余命三ヶ月と宣告された秋山は、偶然訪れた神社で、「龍神の姿を見た」と語る女性と出会う。
片や1980年代、高度成長著しいバブル絶頂の大分市。中学二年生の卓也は、仲間たちに囲まれ、楽しい学校生活を過ごしていた。そんなある日、彼は幼馴染の部屋で衝撃的な場面を覗き見ることになる。
二つの物語が重なり合う時、この物語は驚愕のラストを迎える。

やまの みき (著)
  • URLをコピーしました!
無料でお知らせ掲示板に書き込む

イベントやお店、サークルのお知らせ掲示板へ無料で投稿できます。ぜひ投稿してみてください※無料で1投稿

詳しくはこちら>>フリープランのお知らせ

ライターになって地域を盛り上げる

佐世保エリアの最新情報や、させぼ通信でまだ取り上げてないお店やスポットの情報を書いてみませんか?

詳しくはこちら>>ライター募集

目次