連載小説 須佐の杜ラプソディ|第十四話「迦楼羅王」

第十四話「迦楼羅王」

金剛力士が守る門を潜った先に、大きな神殿が聳え立っていた。

巨大な境内には沢山の人々が、所狭しと行き来し合っている。

境内を隅々まで見渡していた津上が、目を丸くし動きを止めた。

「んっ?どなたかお知り合いでも見つけましたか?」

晴明は口元を上にあげながら、ニヤリと微笑む。

津上は思わず、神殿の方へ指をさした。

「いや、あそこで立ち話をしている男性、亡くなった母のお兄さんじゃないかなぁと思って」

「なるほど、貴方の叔父様ということですね」

「そうです。でも、この世界にいるのは神様たちですよね」

「貴方のように、天界に招待されたのではないでしょうか」

「叔父も招待された?いったい、僕らは何に招待されたんでしょうか?」

「さぁ、それは私にも分かりませんね。今から弁天様にお会いしますから、直接お尋ねされては如何でしょう?きっと教えて下さると思いますよ」

晴明は、すまし顔で問いに答える。

津上は、小さく頷くと人ごみの方へ、視線を戻した。

「あっ、叔父さんがいなくなってる」

「見失ったんでしょう。また、式典でお会いできますよ」

晴明は話し終えると、神殿の方向に向かって歩き出した。

境内にいる人々は、皆、神様なのだろう。

参道ですれ違った人々と同じく、増長天と同じような甲冑を着た大男や、動物のお面を被った着物の男性、天女のような衣をまとった若い女性もいる。

荷物を抱えて神殿に向かう、使用人のような恰好をした中年女性の姿も多く見受けられた。

神殿の入り口には、また甲冑を身に纏った大男が待ち受けていた。

晴明は立ち止まると一礼する。

津上は不思議そうに大男の顔を見つめていた。

男の顔がどう見ても歪なのだ。

その男の顔は、どう見ても人間の顔ではない。

鳥のようなくちばしに、鷹のような大きな鋭い目・・・その瞳には白目がなかった。

「これは、これは迦楼羅王様。お勤めご苦労様でございます。増長天様にご指示頂き、これから弁天様のところまで津上様をお連れしなければなりません。どちらに行けば、弁天様にお会いできるでしょうか?」

「晴明殿、久しぶりでござる。増長天から話は聞いておる。今から案内するうえ、少し待たれよ」

迦楼羅王と呼ばれた鳥の顔を持つ神様は、一瞬のうちに姿をくらます。

津上は、驚きながら晴明に声をかけた。

「いや、今の人、顔が鳥でしたよね?」

「あの方は、先ほどの四天王と同じく観音様に使える天竜八部衆のひとり、迦楼羅王様です。本当のお姿は、金色の翼を持ち、口から火を吐く大鳥です。竜を好んで食べると言われています。」

「鳥が変化した姿なんですか。どおりで・・・」

津上は思わず顔をしかめた。

つづく

 

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