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烏帽子岳の孫悟空「第二十四話」

烏帽子岳の孫悟空

捜査三日目
平成二十九年九月二十二日、AM11:40

捜査一課の四人は烏帽子岳署でのミーティングを終えると、二手に別れてそれぞれ捜査に動き出した。

西東警部と守口警部補のコンビは、大川内家に探りを入れるため聖文女子学園へ。

秋山警部補と五反田刑事のコンビは、私立探偵の町田に紹介された徳安教授を訪ね、美猿憑きの情報収集にあたる。

徳安教授は、たまたま佐世保駅の近くにある多目的ホールアルクス佐世保で行われている学会に出席していたため、秋山と五反田は、アルクス佐世保の一階にある喫茶店で徳安教授と落ち合う段取りとなった。

喫茶店の店内は細長い扇型をした狭い空間で、ガラス張りの壁側に三人掛けの丸テーブルが四つとカウンター席が五つ。

店内には中年の女性ホールスタッフが二名いたが、まだお昼前という事もあり客の姿は見あたらなかった。

珈琲ショップに現れた徳安教授は、微笑みながら秋山たちのテーブルの前で立ち止まる。

秋山と五反田は慌てて席を立ち、徳安を迎えた。

「大変お待たせ致しました。佐世保国際大学の文学部歴史学科で、民俗学を研究しております徳安です。捜査一課の刑事さん達でしたね。町田君から話は聞いております。私で宜しければ、いくらでも捜査にご協力しますよ」

学会の休憩時間を使って面会に応じてくれた徳安教授は、穏やかな表情を浮かべながら、二人の刑事の顔を見比べている。

オールバックの銀髪に黒縁の眼鏡を掛けた英国紳士のような風貌から、育ちの良さと教養の高さがにじみ出ていた。

ホールスタッフが、五反田が事前にオーダーしていたブレンド珈琲をテーブルへと運んでくる。

三人は簡単な自己紹介を済ませると、珈琲を飲みながらさっそく本題へと話を進めた。

「お忙しい中、お時間を作って頂きまして恐縮です。私たち捜査一課は、一年前に起こった女子高生失踪事件を追っているのですが、教授はこの事件をご存知ですか?」

秋山の問いに、徳安は静かにうなづいた。

「町田君と話をしていて、思い出しました。確か乗っていたタクシーごと、消息を絶ったんでしたよね。行方不明の女子高生達は、まだ見つかってないのですか?」

「タクシーは昨日発見されたのですが、女子高生たちは未だ行方不明のままです。正直に申し上げますと、捜査の方も行き詰っている状態ですが、全く手がかりがないわけではありません。実は、私たちは捜査を進めていく中で、美猿憑きというキーワードにたどり着きました。しかし我々はこの美猿憑きという事柄について、全く知識がありません。そこで民俗学にお詳しい徳安教授のお力添えを頂きたいのです」

「警察の方から、美猿憑きの名前をお聞きするとは・・・。どういう流れで、その名前が出てきたのですか?」

徳安教授は、不思議そうに問いかける。

秋山は鞄の中から、土で汚れた一冊の大学ノートを取り出した。

「行方不明になっている女子高生が所有していたノートです。このノートの中には、美猿憑きと孫悟空の事が書き残されていました」

「なるほど、そういう事ですか。そのノートを拝見しても構いませんか?」

「どうぞ」

秋山は微笑みながら、白い手袋とノートを手渡す。

徳安教授は手袋をはめると、貴重品を触るような慎重な手つきで土汚れたノートを手に取った。

「なるほど。確かに美猿憑きのことが書かれてますね」

徳安教授は小さく頷きながら、ノートを秋山に返した。

「そもそも美猿憑きとは、一体どのようなものなのでしょうか?」

「まぁ、解りやすく言えば、土着信仰のようなものですよ。科学が今のように発達していなかった時代、人々は色々な言い伝えや噂を信じて日々生活を送っていた。美猿憑きというのは、その中で生まれたものです。烏帽子岳で災害が起こるたび、人々は美猿王がまた悪さをしたと震え上がっていたわけです。そこで、その美猿王の怒りを鎮めるためにと、この信仰が生まれたのでしょう」

徳安教授の話を聴きながら、五反田がクリームと砂糖をたっぷりと入れた珈琲を美味しそうに飲んでいる。

秋山は呆れたように五反田を横目で見ながら、話を進めた。

「美猿王って、孫悟空の事ですよね? なぜ佐世保の人たちは、烏帽子岳に孫悟空がいると思っていたのでしょうか」

「これは、烏帽子岳にある猿岩が関係していると思われます。猿岩の猿が災いを呼び起こした、と・・・。孫悟空はもともと、花果山の頂にあった一塊の仙石が割れて卵を産み、そこから生まれた石猿なんですよ。どうも、この話が元となっているようです。石猿は、花果山の猿たちに崇められ美猴王と名乗るようになる。この美猴王が、のちに天界で大暴れするんですが、その話はご存知ですか?」

「あっ、知ってます。確か悟空が天界にある桃を食べ散らかして、天帝の怒りをか買っちゃうんでしたよね」

珈琲を飲み干した五反田が、自慢げに口を挟んむ。

口元には、うっすらとミルクの跡が残っていた。

「五反田ちゃん。それって、食べ物のエピソードだったから覚えてるだけだろう」

秋山は我慢できずに、ツッコミを入れる。

徳安教授は二人の漫才のような掛け合いに、思わず笑みをこぼした。

「面白い刑事さん達ですね。まぁ、その通りです。孫悟空は、天界の官職として斉天大聖に任命されます。天帝より蟠桃園の不老不死の桃の管理を任されますが、孫悟空がこの桃を全部食べてしまうんですね。さらに兜率天宮に保管されていた太上老君の金丹にまで手をつけてしまった。ついに天帝は大激怒し、地上に逃げ帰った孫悟空を討伐するため、十万の天兵を派遣するんです」

「なんか、大ごとになってきましたね」

秋山は、まるで現実の出来事の話を耳にしているかのように顔をしかめる。

五反田は目を丸くしながら、徳安教授の語る西遊記の物語の世界に引き込まれていた。

「二人ともそう熱くならずに。あくまでも西遊記の話です。まぁ、派遣された討伐軍のメンバーは、強者揃いの豪華な顔ぶれですよ。神々の将軍と云われる托塔李天王を大将に、その息子の哪吒太子や四大天王(毘沙門天、増長天、持国天、広目天)、観音菩薩の弟子である恵岸も参戦し、天界の名だたる諸将たちが総動員されました。孫悟空の側も牛魔王を筆頭とする六大魔王や、七十二洞の妖怪たち、さらに武装した花果山の猿も駆けつけ大軍を率いて向かい打ち、大決戦となったわけです」

「それは、凄い。それで軍配はどちらに上がったのですか?」

「両者痛み分けですね。孫悟空の軍勢は、猿たちはすべて逃げ延びましたが、悟空の部下の独角鬼王と七十二洞の妖怪たちが生け捕りにされました。討伐軍も哪吒太子と四大天王、それに恵岸も孫悟空に敗れてしまうんです」

「あれ?でも西遊記では、捕らえられた孫悟空が釈迦如来の手で五行山に封印されてしまうはずですよね」

秋山は、不思議そうに首をかしげる。

五反田は興奮したように色白の顔を真っ赤に染めながら、手を握りしめて徳安の話に耳を傾けていた。

「実は苦戦する討伐軍に、援軍が現れるんですよ」

「援軍ですか!」

「そうです。討伐軍に参加していた恵岸が、師匠の観音菩薩に苦戦中との近況報告をしていたんですね。それを聞いた観音菩薩は、天帝に顕聖二郎真君の派遣を推薦するわけです」

「顕聖二郎真君・・・聞いたことない名前ですね」

「顕聖二郎真君は、道教の軍神ですよ。封神演義という物語にも登場する、中国ではポピュラーな神様です。この二郎真君が梅山の六兄弟を引き連れて戦いに参戦し、じわじわと悟空を追い詰めていくんですね。最後は太上老君が天界から放った金剛琢という黄金の輪っかが、見事に悟空の脳天に命中する。衝撃でフラフラになった悟空はその隙をつかれ、二郎真君に捉えられてしまうんです」

「なるほど。西遊記もこうやって詳しく内容をお聞きしてみると、面白いですね」

秋山はにっこりと微笑む。

徳安教授は話が一息つくと、喉を潤すため珈琲カップに手を伸ばした。

「ぜひ、読んでみてください。西遊記は子供向けのイメージがありますが、実はそうでもありません。天界の神々たちが沢山でてきますし、特に私は孫悟空が天界で大暴れする、序盤のエピソードが気に入っています」

「ぜひ、読ませて頂きます。それでですね・・・」

秋山が次の話しを切り出そうとした瞬間、突然スマートフォンの着信音が店内に鳴り響いた。

話を途中で中断した秋山は、内ポケットからスマートフォンを取り出す。

画面を確認した秋山は、思わず目を見開いた。

捜査一課の杉本課長からの着信だ。

このタイミングで、杉本課長からか。

ちょっと早すぎる気もするが。

相手が、こちらの仕掛けに食いついてきたに違いない。

さぁ、どっちに転ぶか。

嫌な予感は全くしない。

予定通りの展開になるような気がする。

油断は禁物だが、面白いことなってきたぞ。

杉本課長の不機嫌な顔が目に浮かぶ。

秋山の目が、突然鋭くなった。


徳安教授と面談中、秋山警部補のスマートフォンの着信音が鳴った。

秋山は徳安教授に頭を下げると、スマートフォンを片手に慌てて喫茶店の外に出る。

取り残された五反田刑事と徳安教授は、ホールスタッフを捕まえて珈琲のお代わりを頼んだ。

秋山と入れ替わりに、三人組のご婦人が店内に入ってきた。

十二時を回り店内がざわつき始める。

気がつくとテーブル席はいつの間にか満席になっていた。

五反田の顔をじっと見つめていた徳安が、にこやかに口を開いた。

「五反田刑事。私はさっきから、貴女が誰かに似てるなってずっと考えてたんですけどね。やっと分かりましたよ」

「えっ、私がですか?誰に似てますかね」

五反田は、はにかみながら恥ずかしそうに頬を赤らめる。

徳安教授は、五反田の目を見つめながら楽しそうに口を開いた。

「哪吒太子ですよ」

「はっ。何ですか、それは!」

五反田の反応を楽しむように、徳安教授はくすくすと笑いながら珈琲カップに手を伸ばす。

五反田は呆気にとられたように、ポカンと口を開けたまま固まってしまった。

「まぁ突然、哪吒太子に似てると言われてもピンと来ませんよね。さっき話してた西遊記に出てくる神様ですよ。あの大決戦では、討伐軍の先鋒として孫悟空と戦いました。まぁ、負けちゃうんですけどね。その哪吒太子ですが、中国では道教の神として崇められています。二年前、台湾に旅行に行った際に、とある寺院で哪吒太子の仏像を目にしたんですがね。その仏像に貴女がそっくりなんですよ」

「え~。私、哪吒太子に似てると言われても、全然うれしくないです。せめて、女優さんとかタレントさんに似てるって言って下さいよぉ」

五反田は半泣き状態になりながら、徳安に訴える。

徳安は、声を出しながら楽しそうに笑い出した。

電話を終えた秋山が、席に戻ってくる。

五反田のしらけ顔を目にした秋山は、思わず二人に問いただした。

「一体どうしたんです。なにかありましたか?」

「ちょっと秋山さん、聞いてくださいよ。私、徳安教授から哪吒太子に似てるって言われたんです」

「えっ、哪吒太子? そりゃ、良かったじゃないか。神様に似てるって事だから」

「それなら、観音様に似てるって言われた方が嬉しいです」

「観音様に似てるなんて、百年早いよ」

「秋山さん、それセクハラです」

徳安教授は二人のテンポ良い掛け合いを、楽しそうに見つめている。

秋山は、五反田の訴えを無視するように、徳安教授に語りかけた。

「徳安教授、そろそろ時間もなくなってきましたので、話の核心部分をお聞きしたいのですが・・・。美猿憑きの具体的な内容を、教えていただけませんか」

「美猿憑きの具体的な内容? それは、どういう意味です?」

「例えば、実際に行われていた儀式での修法とか、そのご利益とか、お供え物の種類とかそういった具体的な内容です」

「解りました。お答えしましょう。ただし今からお話しすることは、あくまでも昔からの言い伝えです。本当にそんな事実があったのかどうかは、定かではありません」

「しかし徳安教授。貴方はこの話を、現実の世界でおこった出来事だと信じていらっしゃる」

徳安教授は、秋山の言葉に顔を曇らせる。

秋山はにっこり微笑んだ。

「どうやら図星のようですね。大丈夫です、僕も教授と同じ部類の人間ですから。心置きなく全てをお話しください」

次回のお話
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やまの みき (著)
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