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捜査二日目
平成二十九年九月二十一日、PM16:03
柚原慶子は、一年ぶりに意識を取り戻した教え子の森吉祐子を見舞うため、南佐世保総合病院に足を運んでいた。
夕方の時間帯だが、病院の一階にある待合所には診察を待つ患者たちで溢れかえっている。
祐子の入院している病室は、そこからエレベーターで上へあがった五階の西病棟509号室だった。
一人部屋の個室には、ベッドが一台とその横に小さなテレビが設置されている。
真っ白な壁には小さな絵葉書サイズの絵が飾られており、窓側の棚に赤い薔薇が活けられたラムネ色の花瓶が置かれていた。
椅子に座っていた慶子は、ゆっくりと立ち上がると閉じられていたカーテンを開く。
突然、太陽の光を浴びたラムネ色の花瓶が、キラキラと光りだした。
ベッドで横になっていた祐子は、急に外の世界から差し込んできた眩しい光に目を細める。
窓の外に映る空は、鮮やかな青に彩られていた。
そんな青い空に一つだけ、真っ白な雲が浮かんでいる。
祐子の目が、雲に釘付けになった。
えっ、ちょっと待って。
この雲を、昔どこかで見たことがあるような気がする。
綿菓子がぎっしり凝縮されたような、濃密な雲。
真っ青な空の上で、重たそうにぷかぷかと浮いていた。
どこで見たのだろう?
なぜか、懐かしい気持ちが込み上げてくる。
頭の中で、必死に古い記憶の糸を手繰ってみたが・・・どうしても思い出せない。
祐子は、小さなため息をついた。
慶子は優しく微笑みながら、祐子に話しかけた。
「気分はどう? 一年間も眠っていたから、まるで浦島太郎になったような気分じゃない?」
「別に。気分は普通に良いですけど」
祐子は人を寄せ付けないキツい瞳で、慶子を見つめ返す。
慶子はそんな教え子の視線に全く臆する事なく、思春期の難しい時期を迎えた生徒たちをあやすように、話をつづけた。
「そう言えば貴女、行方不明になった日の記憶を全て無くしてるそうね」
「それが、何か?」
「いや、本当に何も覚えてないのかなぁ、と思って」
慶子は窓際に目線をそらすと、花瓶の赤い薔薇を細い指先で軽く突いた。
「何も覚えてません」
祐子は顔をこわばらせながら、慶子を睨みつける。
慶子は相手を焦らすかのように、話し方をゆっくりとした口調へ切り替えた。
「あら、そうなの。じゃあ、何か思い出したら、すぐに捜査一課の秋山警部補に知らせてあげなさい。彼、すごく困ってるようだから」
祐子は不思議そうな表情を浮かべながら、小さくうなずく。
慶子は悪戯っぽく微笑んだ。
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