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捜査二日目
平成二十九年九月二十一日、AM6:00
捜査二日目の朝。
秋山警部補はスマートフォンの着信の音で目を覚ます。
部屋のカーテンの隙間から、朝日のまばゆい光が差し込んでいた。
秋山は眠そうに目をこすりながら、スマートホンの画面を確認する。
時間は早朝六時。
佐世保烏帽子岳署の大島署長からの着信だった。
「秋山警部補、朝早くから申し訳ありません。烏帽子岳の八合目付近で土砂崩れが発生しまして」
スマートホンから、大島の興奮した声が聞こえてくる。
周りに他の警官たちもいるのだろう。
大島の声とともに、数人の男たちの話し声も聞こえてきた。
「八合目? 昨日連れて行ってもらった、タクシーの失踪現場の近くですか?」
秋山は、驚いたように声を上げる。
「そうです。ちょうど、タクシーが消息を絶ったS字カーブの先の崖のところです。その土砂崩れの現場から、失踪中のタクシーが発見されました」
「了解しました。ちなみにタクシーの中から、失踪中の女子高生三名の姿は確認できましたか?」
「残念ながら、タクシーの損傷が酷すぎて確認できてません。ちなみに、今のところ土砂崩れの現場からも、人の姿は見つかってません」
「そうですか」
「でも、もうすぐ佐世保署の応援部隊が到着します。土砂崩れの土砂の中を調べれば、何か出てくるかもしれませんよ」
「そうですね。それに期待しましょう。僕もすぐにそちらに向かいます」
電話を切った秋山は、慌ててベッドから飛び起きると内線電話の受話器を握る。
受話器から、五反田の眠そうな声が聞こえてきた。
秋山は五反田刑事を連れて、烏帽子岳へ車を走らせる。
助手席に座った五反田は、大きなあくびをしながらコンビニエンスストアで買ったクリームパンを頬張っていた。
「ここのホテルの朝食はボリュームたっぷりって、ネットの口コミに書いてあったのに。朝から呼び出しなんてツイてないですよ」
五反田は口をもぐもぐさえながら、不満を漏らす。
「そんなことは無いよ。捜査二日目にして、一年間消息不明だったタクシーが見つかったんだ。僕らは運が良いじゃないか」
ニッコリと微笑んだ秋山は、烏帽子岳の細い登坂の道を、軽やかなハンドルさばきでどんどんと突き進んでいく。
二人は、朝七時前に現場に到着した。
八合目の土砂崩れ現場には、佐世保署からすでに沢山の捜査員が応援に駆け付けていた。
土砂は、道路を遮断するようになだれ込んでいる。
現場には黄色いテープが張られており、捜査員以外は立ち入り禁止となっていた。
秋山の姿を確認した大島が、二人の方へ駆け寄ってきた。
「お待ちしてました。私がご案内します」
大島が見つかったタクシーの方へ二人を案内する。
秋山は歩きながら、大島に現場の状況を確認した。
「この土砂崩れは、何時ごろ発生したんですか?」
「今朝三時半に、この道を通りかかった新聞配達員から通報があり、うちの署の当直だった田嶋という巡査が、直ぐに現場に駆けつけました。その時に、タクシーの存在も確認されてます。発生時刻ですが、二時十分ごろに夜間パトロールのパトカーがこの道を通過しているので、二時十分~三時半の間に土砂崩れが発生したと考えられます」
「ところで、夜中に強い雨が降ったんですかね?」
「報告では、烏帽子岳一帯に雨は降っておりません。ただ二時半ごろに大きな雷の音がなってます。その時の雷が原因で、土砂崩れを起こしたんだと推測されます」
秋山は大島の報告に頷きながら、土砂の方に視線を送る。
秋山の心に胸騒ぎが走った。
雷が落ちて、それが原因で土砂崩れが起こる・・・そんな事があるのだろうか?
秋山は、腑に落ちない表情を浮かべる。
六日前の大雨で、地盤は緩くなっていたのかもしれないが・・・。
それにしても、なんだか話が旨く出来すぎてないか?
何か大きな力が働いていて、我々は将棋の駒のように動かされている。
そんな気がする。
今回の事件は、誰が何と言おうと、自分の直感を信じた方が良さそうだ。
確かに失踪中のタクシーが見つかったことは朗報だけど・・・この状況を素直に喜んでいてはいけない。
秋山の直感が、警戒せよと告げていた。
なだれ込んだ土砂を確認した秋山は、次に発見されたタクシーの方へ歩き出した。
タクシーはすでに、発見された現場から少し奥ばった路肩に動かされている。
沢山の鑑識班の警官たちが、一年ぶりに姿を現したタクシーを取り囲んでいた。
秋山と五反田の足が止まる。
烏帽子岳署の山内巡査が、鑑識に紛れるようにしてタクシーの前で待っていた。
大島が、部下の山内に声をかける。
山内は、敬礼して秋山と五反田を出迎えた。
「なんですか、これは?」
五反田が驚いたように目を丸くして声を上げた。
秋山が珍しく苦虫をつぶしたように、顔をしかめる。
「これが発見されたタクシーです。こっちが前で、こっちが後ろですね」
山内巡査は、慌てて説明を加える。
「秋山さん、これは酷いですね」
五反田は、半ばあきらめ気味にため息をついた。
秋山はじっとタクシーを見つめている。
発見されたタクシーは、車の形とは程遠い。
まるで巨大な何かに踏み潰された様に、原型を失っていた。
「これじゃ、どう見てもプレスされた鉄板にしか見えないじゃないですか。乗っていた人達も、逃げ遅れてたら一緒に潰されちゃてますよ。でも一体どうやったら、タクシーがこんな形になるんでしょうか? 土砂崩れに巻き込まれても、ここまではならないでしょう」
五反田は、秋山の意見を求める。
秋山は腕組みをしながら、困惑した表情でつぶやいた。
「たしかに、巨大な何かに押しつぶされた痕にしか見えないね。例えば巨大なロボットに踏みつぶされたとか、巨大な隕石が落下してきたとか」
「なんか映画の世界の話みたいになっちゃいますよね」
「うん。流石にこれは、誰にも説明できないよなぁ」
秋山は、苦笑いを浮かべる。
横で話を聞いていた大島も、お手上げの表情を浮かべていた。
「そういう事か」
独り言のように呟いた秋山の表情が、突然険しくなった。
「五反田ちゃん、僕らはとんでもない事件を担当しちゃったのかもしれない」
秋山は、ペタンこになったタクシーを睨みつける。
五反田は、恐る恐る秋山に問い返した。
「とんでもない事件って・・・」
「この事件は、レベル6以上の事件の可能性が高いってことだよ」
「えっ、レベル6以上って。もしかして機密扱いの案件になるって事ですか・・・」
「まだ分からないけどね。そんな予感がする」
「西海市の事件も、そんなこと言ってましたね」
五反田は興味津々に問いかける。
秋山は、深いため息をついた。
「西海市の事件は、完全にレベル6以上になるね。この世に捜査状況を発表できない事件。捜査を担当した者は、その一部始終を胸に仕舞って、すべて墓場まで持っていかなければならない」
「そんなぁ。まだ私、これがデビューして三件目の事件なんですけど」
「まぁ、この事件がそうと決まった訳じゃないから。ただ、覚悟はしといたほうがいい。このタクシーの潰され方は、尋常ではない。西海市の事件を含め・・・我々捜査一課は、レベル6以上の事件を二ついっぺんに抱えることになるかもしれないね」
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