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捜査一日目
平成二十九年九月二十日、PM17:58
聖文女子学園から佐世保烏帽子岳署に戻った秋山警部補と五反田刑事は、捜査初日で得た情報を大島署長と共有しあった。
三人は、入れたての熱い珈琲を飲みながら、職員の川頭杏里が作った手づくりのドーナツを頬張っている。
オールドファッションのドーナツで、きな粉をまぶしたものと、シンプルなプレーンタイプの二種類が用意されていた。
このドーナツは甘さの加減が絶妙で、サクサク感もほど良くとても食べやすい。
五反田は、ドーナツを一気に三つもたいらげていた。
「杏ちゃん、このドーナツ本当に君が作ったの?。美味しいね」
秋山は、珈琲のお代わりを持ってきた川頭に話しかけた。
珈琲を継ぎ足していた、川頭の手がとまる。
川頭は、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「本当ですかぁ。凄く嬉しいですぅ。私、ドーナツ作るの大好きなんですよ」
「いや、これ美味しいってもんじゃないですよ。激旨すぎて、私なんか一気に三個も食べちゃいましたから」
五反田は、口をもぐもぐさせながら、四個目のドーナツを手に取っている。
珈琲をつぎ終わった川頭は、照れ笑いを浮かべながら会議室を後にした。
「森吉祐子は、何も覚えてない?」
秋山の報告を聞いた大島は、驚いて声を震わせた。
それはそうだろう。
彼はこの事件を一年も担当してきた人物であり、やっと目を覚ました彼女の証言を期待して待ってた。
大島が、落胆するのも仕方がない・・・秋山は、大島に同情するように話を進めた。
「そのうち、記憶は戻るかもしれないそうです。でも、戻らないかもしれない。捜査は、完全に暗礁に乗り上げてしまいましたね」
「そうですか。森吉祐子はたった一人の生存者ですからね。彼女が、あの時いったい何が起こったのかを証言してくれれば、捜査は一気に前進するはずなんですが・・・」
大島は、悔しそうに唇を噛みしめる。
秋山は、熱い珈琲を口に含みながら、小さくうなずいた。
「まぁ、仕方がないですね。本人が覚えてないと言っているんですから。ですが、担任の柚原先生から、面白い話を聞きだしてきましたよ」
「ほう、一体どんな話です?」
大島が、藁をも掴むように食いついてきた。
「失踪中の塩田はるかと大林涼子の事です。二人は、事件に巻き込まれる一ヶ月くらい前から、学校が終わると毎日市立図書館に通っていたそうです」
「図書館ですか?」
「そう、図書館です。二人は毎日、図書館である書物を読み漁っていました」
「それは、初耳です。それで、いったいどんな本を読んでいたんですか」
大島は少し身を乗り出しながら、熱い珈琲を口に含む。
五反田は話し込む二人の顔を見比べながら、五個目のドーナツを美味しそうに頬張っていた。
「西遊記の本です」
「えっ、西遊記?」
秋山の報告に、大島の動きが止まった。
「あの、もしかして孫悟空とか猪八戒が出て来る奴ですか?」
「そう、その西遊記です」
「なんで、そんな本を市立図書館で読み漁る必要があるんでしょうか。文化祭か何かで、演劇の演目に考えていたとか?」
「そんな予定はなかったみたいですよ。全く思い当たる節がないと、柚原先生も首を傾げてましたから」
秋山はふと、午前中に見た白いもくもくとした雲を思い出す。
あの雲は、筋斗雲に似ていたな。
二人はあの雲を見つけて、筋斗雲の研究をしていたとか?
それは、あり得ない。
大島署長が口にした、西遊記の演劇の線はどうだろ?
その線も、薄いな。
まてよ、西遊記か。
このメンバーで西遊記を演じるなら、配役は僕が孫悟空で五反田ちゃんが猪八戒、沙悟浄は大島署長あたりか。
そして三蔵法師は・・・。
駄目だ。
ひらめきのパズルのピースが、上手く埋まらない。
このピースが綺麗にはまり込んだら、いつもの直感がスムーズに発動するんだが・・・。
秋山はもやもやする心を振り払うように、熱い珈琲を一気に飲み干した。
大島署長と明日の打ち合わせを終えた秋山と五反田は、烏帽子岳を下り、光月町にある宿泊先のロータスホテルへと向かう。
時間は夜の二十時を少し回っていた。
ホテルはアーケードから徒歩五分ほど離れた場所にあり、向かい側には佐世保体育文化館、二件隣にはコンビニエンスストもある。
ホテルはヨーロッパのプチホテルのような外観で、一階にはイタリアンレストランが設置されている。
繁華街から少し離れた住宅街にそびえ立つ八階建てのお洒落な建物は、見るものにヨーロッパの異空間を連想させた。
秋山と五反田は早々にチェックインを済ませると、一階にあるレストランで夕食を食べる事にした。
秋山はオイルサーディンと水菜のペペロンチーノ、五反田は佐世保名物レモンステーキに、オムライスの大盛りをオーダーした。
二人は生ビールで乾杯を済ませる。
五反田は先に運ばれてきたオムライスを、美味しそうに頬張っていた。
「君って、何でも美味しそうに食べるよね」
秋山は、呆れたように食事中の五反田の顔を見つめる。
「だってここのオムライス、めちゃくちゃ美味しいんですもん」
五反田は幸せそうな顔で、オムライスをどんどんと口に運んでいく。
少し遅れてレモンステーキが出てきた頃には、大盛りのオムライスを綺麗に平らげていた。
「秋山さん。そういえば、科捜研にいったい何の遺留品の再調査を頼んだんですか?」
五反田は思い出したように、捜査の話を始めた。
「あぁ、あれね。獣の毛だよ」
「獣の毛ですか。あの、一年前に森吉祐子さんが発見された時、制服に付着していた奴ですよね?」
五反田は不思議そうに瞬きをした。
「そうだよ。遺留品の中で、あの獣の毛だけが長崎県警のデータベースから消されていた。現物はちゃんとあるのにね。何の獣のものなのか、情報が知りたいんだ」
「なぜ、長崎県警のデータベースに残ってないんでしょうね。当時の鑑識班が調べてそうなのに」
「そうだなぁ。何かのミスでデータが消えてしまったのか。それとも誰かが、故意にデータを消したのか・・・」
秋山は、残り少なくなった生ビールをぐっと飲み干す。
五反田は美味しそうに、熱々の鉄板の上で料理長特製のレモンソースがたっぷりかけられたステーキを頬張った。
「きっと、そのどちらかですよねぇ。でも・・・なぜ大島署長は、データが消えていた事に気がつかなかったんでしょうか」
「行方不明のタクシーの捜索にばかり気を取られて、遺留品自体に目がいって無かったんだろうね」
「なるほど」
五反田は納得したように頷いた。
「秋山さん、それにしてもあの毛の色って凄くないですか?。そもそも、あんな綺麗な毛並みを持った動物が、この烏帽子岳にいるんでしょうか?」
「いったいあの獣の毛の正体は何なのか?。だからこそ、しっかりとした情報が欲しいんだ。でもね、今回データが残って無かった事が、逆に僕らに有利に働くかもしれない」
秋山はニッコリ微笑む。
五反田は、驚いたように目を丸くした。
「なぜそう思うんですか?」
「深い意味はない。僕の直感」
そう言うと、秋山は何かを考えるように、黙り込んでしまった。
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