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町田探偵事務所の町田探偵は、早朝、事務所のソファーに座り、白い湯気をあげたマグカップに手を伸ばす。
闇夜を思い出させるような熱々のコーヒーが、カップいっぱいにそそがれていた。
珈琲をひとくち口にふくむと、物思いにふけるように窓の外に視線を向ける。
町田はつい最近まで依頼があり追っていたある事件を思い出していた。
その事件は、ごく一般的な若い男性の失踪事件だと思われていた。
しかし、ふたを開けてみればとても可笑しな事件で、失踪した男性の妹が身に着けていたはずの金の指輪が須佐神社の祠の中で発見されたのを皮切りに、町田は摩訶不思議な事件に巻き込まれていく。
最終的に失踪していた男性の妹が入院先の病院で息をひきとったその日、彼は須佐トンネルから出てきたところを警察に保護されるのだが、その後の男性の供述は、ちんぷんかんぷんなものだった。
男性曰く、須佐神社の祠の神「高天様」に導かれ神様の暮らす世界である「天界」に行っていたとのこと。
男性は、妹が亡くなったのも解っていたし、金色の不思議な指輪の存在も知っていた。
しかし、ひとつだけ男性が驚いたことがある。
それは、失踪した日から、すでに一か月の月日がたっていたこと。
男性は、天界に行って一日しか経っていないと思っていたのだ。
そもそも「天界なんてある訳がない」と言いたいところだが、町田は、金の指輪が消える瞬間を目撃してしまった。
そう、この事件はとてもやばいものである。
町田の第六感がそう彼に告げている。
町田は、これ以上、この事件に首を突っ込むのをやめた。
なぜなら、町田探偵事務所に調査依頼を持ち込んだ、依頼人の女性が姿を消したのだ。
それだけではない、失踪事件の主役である津上邦明本人も、警察の事情聴取を受けた後、煙のように姿を消している。
そして、佐世保署の保管所に保管していたあの金の指輪も、また、跡形もなく消えてしまった。
そう、もうこの事件は、町田の手におえるものではなくなってしまったのだ。
「リン、リン、リン」突然、スマートホンの着信音が、事務所に響き渡った。
町田は慌てて、スマホのディスプレイに目を向ける。
着信は長崎県警捜査一課の秋山警部補から電話だった。
町田はスマホを手に取った。
耳に聞きなれた秋山の声が聞こえてくる。
彼は慌てているようだった。
「ヒロさん、やばいことになった。今、テレビ見てる?」
「いや、テレビは見てません」
「じゃあ、 とにかくテレビをつけてみて。烏帽子岳に孫悟空が現れたんだ!」
いつも冷静なはずの秋山が、切羽詰まった声を上げている。
町田は怪訝そうに一瞬、顔をしかめると、慌ててテレビの電源を入れた。
「なんだ、これは・・・」
町田は驚きのあまり、言葉を無くす。
テレビ画面には、烏帽子岳を暴れまくる孫悟空の姿が映し出されている。
そして佐世保の街は、戦場のように火の海と化していた。
終わり。
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