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津上邦明は、気が付くと須佐トンネルの前に倒れていた。
どれくらいの時間、倒れていたのだろう。
空の景色は赤く染められており、夕焼けがとても奇麗にみえた。
どうやら元の世界に戻ってきたらしい。
目の前には、須佐神社や小さな個人商店など、見慣れた景色が広がっていた。
津上はついさっきまで、この世界とは違う別世界にいた。
須佐神社で不思議な老人と出会い、須佐トンネルの先へと誘導された。
あの世界は、神仏が住む世界であると、安倍晴明と名乗る男性に説明されたが、その安倍晴明は、牛魔王という怪物だった。
津上は神仏をなんとなく信じてはいたが、まさか本当にその世界が存在するとは思ってもいなかった。
天帝の住む神殿で、神獣たちの戦いを見ていたところまでは覚えている。
その後、白い巨大な竜が上空から落下し地面に叩きつけられた瞬間、その衝撃の大きさに爆風が吹き荒れた。
そこから先の記憶がないのである。
津上は立ち上がり、恐る恐るトンネルの方へ振り向く。
トンネルの先は、高天町の風景が遠くに見えた。
「津上さんですか?」
突然、後ろから声をかけられた。
津上は慌てて声の方へ目を向ける。
トンネルの入り口に向かって二人の男が歩いてきた。
「佐世保署の古賀といいます。こちらは、探偵の松田さんです」
松田と呼ばれた男は、ギリシャ彫刻のような整った顔をこちらに向け、軽く会釈した。
「警察と探偵さんが二人おそろいで、僕に何の御用でしょう?」
津上は顔をしかめ二人に問いかける。
古賀は、日に焼けた顔に薄っすらと笑みを浮かべながら、問いに答えた。
「貴方を探してたんですよ。貴方のお姉さまより警察に捜索願が出されまして・・・。松田探偵事務所にも、同様の依頼があったそうです。我々は、たまたまある情報が元となり、一緒に捜査を進めることになりましてね。はれて、貴方を見つけ出すことに成功したというわけです」
「捜索願い?そもそも、僕は失踪した訳でもないのに、なぜ捜索願いが出されてるんですか?」
「失踪していない?」
古賀の表情から笑顔が消える。
二人の会話に耳を傾けていた松田が、口をはさんだ。
「失踪していない?では、貴方はこの一か月間、仕事を休み、家にも帰らず、いったい、何処で何をしていたんですか」
「えっ」
津上の顔が驚きの表情に変わる。
この二人は何を言ってるのだろう?。
今、一か月と言ったような気がする。
「あの、今日は何月何日なんですか?」
津上は怪訝そうに古賀に問いかける。
古賀は鋭い目つきで津上をにらみつけた。
つづく
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