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「大島署長が失踪した?」
古賀警部補が驚きの声を上げる。
探偵の町田は、秋山の顔を見つめながら眉をひそめた。
「そうです。先ほど烏帽子岳署に連絡してみたんですが、この一か月間、彼は病気療養の理由で休暇をとっています」
「いや、しかしそれだけじゃ、失踪したことにはならないでしょう」
「本人と、この三週間連絡がついてないとのことです」
秋山の言葉に、古賀は口ごもる。町田が五反田刑事の方へ目を向けた。
「五反田さん、貴女はどう思います」
「えっ、私ですか?」
突然、話をふられた五反田は、驚いたように目を丸くする。
隣に立っていた秋山が、話に割って入った。
「ヒロさん、彼がキーマンでしょうね。何かしらこの事件の解決の鍵を握る人物だと思われます。でもね、多分この世にはもういませんよ」
「なぜ、そう思うの?すでに何者かに消されてるとでも?」「いや、そうではなくて、彼が自主的に姿を消したんじゃないかと思っています」
「自主的に姿を消した?」
町田は不思議そうに秋山に問いかける。
秋山の優しそうな目が、一瞬だけ鋭くなった。
「そうです。自主的に姿を消してますね。彼の住んでいたマンションはもぬけの殻でした」
「逃げたのか」
古賀警部補が、悔しそうに舌打ちを打つ。
秋山の隣で目を丸く見開いていた五反田が、突然、鳥居の方へ視線を向けた。
変な着物を着た老人が、朱色に塗られた鳥居をくぐり須佐神社の境内を歩いている。
老人は、四人が立ち話している、駐車場までゆっくりと歩を進めた。
「ここにおったか、秋山警部補」
老人は四人の前で立ち止まると、秋山に向かって声をかけた。
「どちら様です?」
秋山は、首をかしげる。老人は、微笑みながら右手を差し出した。
「警察が、これを探しとると耳にしてな」
四人の視線が、一斉に老人の手のひらに向けられる。
古賀警部補が、思わず割って入った。
「その指輪は・・・」
「そう、さっきあんたの目の前で消えてしまった指輪じゃよ」
「どうしてそれを?」
「あんた方二人には、この指輪はちと荷が重そうだったので、秋山警部補に託すことにした」
老人は人懐っこく笑みを浮かべ秋山に指輪を手渡す。
ハート形の指輪が、太陽の光を浴びて金色に光った。
「この指輪、もう消えたりしないでしょうね」
秋山は、面白そうに老人に話しかける。
老人は大きくうなずいた。
「あんたが持っていれば大丈夫じゃよ。消えるのはわしの方じゃ」
そう言うと、老人の姿が煙のように消えてしまった。
つづく
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