連載小説 須佐の杜ラプソディ|第二十二話「九月三十一日」

第二十二話「九月三十一日」

須佐神社の駐車場の前に、三人の刑事と探偵が一人集まって話し込んでいた。

神社の目の前にある小さな商店から、女性店主と中年の女性の話し声が聞こえてくる。

買い物客が、昨年、烏帽子岳で起こった女子高生失踪事件の噂話をしていた。

秋山警部補が差し出した一枚の紙に、古賀警部補と町田探偵の二人が興味津々に覗き込んでいる。

町田が何かに気が付き、声を上げた。

「秋山君、これって」

「そうです。あり得ない記録なんですよ」

古賀は、まだ何があり得ないのか気づかぬまま、文章に目を通している。

秋山が差し出した髪は、長崎県警の公式な報告書であり、失踪中である津上邦明の失踪時の記録が記入されていた。

「これ、津上邦明がマンションの防犯カメラに最後に映っていた時の記録ですよね」

古賀は、眉をひそめながら、顔を上げる。

秋山は、面白そうに古賀に問いかけた。

「日付を見てみて下さい」

「日付?」

古賀は、慌てて報告書の日付に目を向ける。

そこには、九月三十一日と記入されていた。

「これが、どうかしたんですか?」

「古賀先輩、その日付の報告書は、この世に存在しないんですよ」

「この世に存在しない?」

「そうです。だって、九月は三十日までって決まってますから」

「えっ、あぁ。そういうことか」

古賀は理解して頷いた。

「これ、五反田刑事が気が付いたんですよ」

僕が手に入れた報告書を彼女に見せたら、この報告書は偽物ですよって言いだして」

秋山は、隣に立っていた五反田の方へ顔を向ける。

五反田は慌てて直立不動になり、緊張した面持ちで頬を赤く染めた。

「はい、だって九月は三十日までですから。この報告書は、何者かが偽装したものと思われます」

「いや、そうとは限らないでしょう。ただの書き間違いかもしれない」

町田が、無表情のまま五反田の発言に疑問を呈す。

秋山が横から話に割って入った。

「いや、ヒロさん。そうじゃないんです。完全な偽装書類です」

「なぜ、そう言い切れるの」

「報告者の欄に記入されてある名前を見てみて下さい」

秋山の言葉に、古賀と町田は報告書に目を向ける。

報告者の欄には、大島鍵次と書かれていた。

「大島錠次・・・。こんな名前の刑事は、確かにうちの署にはいないな。いや、でも何処かで聞いたことあるような」

古賀は苦虫を潰したような苦い表情を浮かべた。

「そうですね。これは、佐世保烏帽子岳所の署長ですよ。完全なでたらめです。でもですね、実はこの話、つづきがあるんですよ」

つづく
 

次回のお話

連載小説 須佐の杜ラプソディ|第二十二話「九月三十一日」

2019.09.15
 

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片や1980年代、高度成長著しいバブル絶頂の大分市。中学二年生の卓也は、仲間たちに囲まれ、楽しい学校生活を過ごしていた。そんなある日、彼は幼馴染の部屋で衝撃的な場面を覗き見ることになる。
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やまの みき (著)