連載小説 須佐の杜ラプソディ|第十六話「弁才天」

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第十六話「弁才天」

神殿の中に案内された安倍晴明と津上邦明は、長い廊下を歩いていく。

人ごみでごった返していた境内とは違い、神殿の奥は静まり返っていた。

「こちらのお部屋で、弁才天がお待ちかねである」

案内役の迦楼羅王の言葉に、晴明は小さく頷いた。

「どうぞ、お入りなさい」

襖の向こう側から、女性の声が聞こえた。

晴明はそっと襖を開ける。

広い室内の中央に、煌びやかな着物を身につけた美しい女性が座っていた。

晴明はお辞儀をして、足音を立てないようにすり足で部屋の中に入っていく。

津上も慌てて一礼すると、晴明の後に続いて部屋に入った。

その女性は琵琶を手に持っていた。

女性がバチを一振りする。

琵琶が「べん」と綺麗な音色を奏でた瞬間、襖がぴしゃりと閉まった。

広い部屋はお香の心地よい香りで満ち溢れている。

女性は津上の顔をじっと見つめると、懐かしそうに口を開いた。

「久しぶりですね。今は津上殿とお呼びすればよろしいのかしら?」

突然名前を呼ばれた津上は、オロオロしながら晴明に助けを求める。

晴明は涼しそうな笑顔を見せると、女性に話しかけた。

「弁才天様、大変ご無沙汰しております。相変わらず、お美しい」

「まぁ、そんなに褒めて頂いても、何も出ませんよ。しかし・・・はて?、そなたはどちら様でしょうか?」

「えっ、何をおっしゃいますか。安倍晴明でございますよ。私の顔をお忘れになられましたか?」

晴明は慌てて問いかける。

弁才天は何かを思い出したように微笑んだ。

「あぁ、陰陽師の」

「そうです、安倍晴明でございます」

晴明は、ほっとしたように笑みを浮かべた。

その瞬間、突然入り口の襖が開いた。

津上は、思わず襖の方へ目を向ける。

部屋の外に甲冑に身を包んだ四人の大男が立っていた。

神殿までの道中の護衛を担当した増長天の姿も見える。

晴明がすかさず声をかけた。

「これは、これは四天王お揃いで。津上様の妹君は見つかりましたかな?」

四人の男たちは、晴明の問いに答えず,部屋の中に入ってくる。

丸い兜を被った大男が、津上の前で立ち止まった。

「おぉ、恵岸ではないか。元気にしておったか?」

津上は、意味が分からず首を傾げる。

増長天が口を挟んだ。

「多聞天、恵岸行者は下界での生活が長すぎて、こちらの記憶を忘れておる。さっきの妹君もそうであったであろう」

「うむ、確かに妹の貞英もそうであったが、恵岸までも父親のわしの顔を忘れておるとは・・・」

多聞天は思わず顔を顰めた。

つづく
 

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