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老人は須佐神社の境内の外に出ると、須佐トンネルに向かって歩き出す。
津上は戸惑いながらも追いかけるように老人の後ろをついていった。
小さな商店の前に立っていた女性が不思議そうに津上に目を向ける。
古いレンガ作りのトンネルの入り口の前で、老人が立ち止まった。
「忘れんうちに、あんたにこれを渡しておこうかの」
老人は、ハート型の指輪を津上に手渡す。
津上は確認するように、まじまじと指輪を見た。
「これ、確かに妹の指輪ですね。なぜ、貴方がこの指輪をお持ちなんでしょう?」
「妹さんから預かったんじゃ。ここから先は、ちと危険になる。ちゃんとわしの言う事を聞くように」
「それは、どういう意味ですか?なぜ、入院中の妹がこのトンネルの中で待ってるんです?妹を病室から拉致したというのですか?」
津上は、訝し気に顔を顰める。
「あんたは、何か勘違いしているようじゃの。わしは何も企んでなんかおらんよ。むしろ、こんな面倒くさい道案内の仕事は、さっさと終わらせてしまいたいくらいじゃ」
老人は、小さく舌打ちをうつと、さっさとトンネルの中に入っていった。
津上も慌てて後を追う。
津上は、トンネルに足を踏み入れた途端、中の異変に気がついた。
短いはずのトンネルの先が、なぜか見えない。
暗闇がトンネルを支配していた。
「こりゃいかん。妹さんが消えとる」
老人は、困り果てたように呟いた。
「ちょっと待ってください。消えたって、どういうことですか?」
「わしは、ちゃんとここで待っておるように伝えておいたのに、あんたの妹は一人で勝手にトンネルを抜けてしまったんじゃ。これは不味いぞ」
「おっしゃっている意味が、全く分かりませんね」
「そんな事を言っている暇はない。説明は後じゃ。とにかく、我々も先を急ぐぞ」
老人は暗闇を進む。
突然、真っ暗だったトンネルの先に神々しい光が差した。
まばゆい光に飲み込まれるように、老人の姿が見えなくなる。
津上は唖然としたまま、その場に立ち尽くした。
つづく
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