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佐世保市光月町のホテルロータスハウスを横目に、五差路の交差点を渡った津上邦明は、須佐神社方面に向かって、ゆっくりと直進する。
空には、雨が今にも降り出しそうな灰色の雲が広がっていた。
一本道を歩いていくと、目の前に朱色に塗られた須佐神社の鳥居が見えてきた。
津上は月に一度、この神社に訪れる。
気がつくと、鳥居の前に一人の変な着物を着た老人が立っていた。
老人がこちらをじっと見ている。
こういう人とは絡まないほうが良い。
愛想よく微笑む老人に向かって、すれ違いざまに軽く会釈をした津上は、先を急ぐように須佐神社の鳥居を潜った。
「須佐神社にお参りかな?」
老人は、津上に声を掛ける。
突然話しかけられた津上は、思わず立ち止まった。
「えぇ、ここはうちの町内の氏神様なので」
「感心じゃのう。最近の若いもんは、神仏を中々信じておらん。この世の中には、自分の頭の物差しでは測れない事が沢山ある。目に見えるものしか信用せんのは、如何なものか」
老人は、小さく頷いた。
「そうそう、あんたには、妹さんがおるじゃろう」
「えっ、知佳のお知り合いの方ですか?」
「いや、妹さんがトンネルの中で待っておるでな。それを伝えに来た」
「知佳が、トンネルの中で待ってる?」
津上は顔をしかめる。
妹は、入院中で、とても外に出られる状態ではなかった。
「その先にある、須佐トンネルの中じゃ。そこで待っとる。さぁ、一緒に行こうじゃないか」
老人は話終わると、さっさと鳥居の方へ歩き出す。
津上は、慌てて問いかけた。
「どこに行くのでしょうか?」
「今、説明したじゃろう。須佐トンネルの中じゃ」
「いや、妹はそこにはいないでしょう」
「だからさっき言ったじゃろう。この世には、自分の頭の物差しでは、測れない事もある」
老人は右手を差し出す。
津上は、驚き目を丸くする。
老人の掌に、妹が何時も身につけているハート型の指輪が光っていた。
つづく
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