烏帽子岳の孫悟空「第四十二話」

烏帽子岳の孫悟空

捜査四日目
平成二十九年九月二十三日、AM8時28分

巨大な猿は、佐世保駅を粉々に壊した後、四ヶ街アーケードに向けて進路を変える。
予測不能な怪物の動きに、逃げ惑う市民はもちろん、避難を誘導する警察官や消防局の隊員達も大混乱に陥っていた。
移動を始めた巨大な猿は、多目的ホールのアルカス佐世保に興味を示す。
ゆっくりと建物に近づいた怪物は、面白がるようにストンピングの蹴りを入れ始めた。
総事業費150億をかけて建てられたアルカスのガラス張りの壁面が、ボロボロに崩れ去っていく。
舟をイメージして建築されという芸術的な建築物は、見るも無残な姿に変わり果ててしまった。
巨大な猿は、嬉しそうに手を叩く。
その時、佐世保市の上空に三機の戦闘機が姿を現した。
戦闘機はもの凄いスピードで、真っ青な佐世保の空を駆け抜けていく。
ボーイング社が短距離離陸垂直着陸機ホーカー・シドレーハリアーを基に、スーパーテクニカル翼や揚力強化装置を組み合わせて開発した、AV‐8BハリアーⅡだ。
米国は巨大な猿の怪物が佐世保市に出現した直後から、ホワイトハウスで緊急会議を開いていた。
ペンタゴンはレッドライン設定して、緊急事態に対応すべく、アメリカ海軍第七艦隊に戦闘準備を整えさせる。
巨大な猿がレッドラインを超えた瞬間、大統領の指示のもと、米海軍は直ちに攻撃を開始した。
佐世保の街は大混乱に陥っている。
出撃命令を受けたパイロット達は、米海軍佐世保基地を守るため、決死の覚悟で佐世保市の上空へ飛びたっていた。
三機の戦闘機は上空を旋回しながら巨大な猿の姿を捉える。
アメリカ海軍第七艦隊のアイスマン大尉は、斜め後ろを飛行する部下へ檄を飛ばした。

「マーベリック、暴走するなよ。今回の相手は、いつもと勝手が違うからな」

「大尉、なに言ってるんですか。こんな怪物相手に大暴れしなかったら、後で絶対に後悔しますよ。しかしホントに馬鹿でかいなぁ。まるで日本の怪獣映画を見てるみたいだ」

マーベリックは上司の忠告に、陽気な軽口を叩く。
アイスマンは、単独行動をとる癖があるマーベリックの行動を気にしながら、巨大な猿を射程距離に捉えた。

「いいか、相手は未知数だ。舐めてかかると、命を取られるぞ」

マーベリックは、上司の激に苦笑いを浮かべる。
佐世保の空は見事なまでの晴天で、マーベリックの得意なアクロバット飛行には、持ってこいの天気だった。
巨大な猿はあっと言う間にアルカス佐世保を破壊すると、四ヶ街アーケードの入り口に近づいて行く。
近隣の建物は、次々に巨大な猿に踏み潰されていた。
三機の戦闘機は一斉に射撃準備に入る。
巨大な猿が、上空に浮かんだ三機の戦闘機に気がついた。
猿の怪物の視線が、アイスマンの青い瞳に突き刺さる。
アイスマンは、臆する事なく部下達に射撃の指示を出した。
三機の戦闘機から、一斉に空対地ミサイルが発射される。
その瞬間、巨大な猿は、ニヤリと微笑んだ。
こいつ、笑ってるのか?
アイスマンは、驚き目を丸くする。
もしかしたら、敵は我々が思っているより、はるかにヤバい奴なのかもしれない。
アイスマンの脳裏に、嫌な予感が走った。
一斉に発射されたミサイルは、見事に怪物の顔面に直撃する。
真っ白な白煙が、巨大な猿の顔面を一気に包み込こんだ。

「やったぞ。糞食らえってんだ」

マーベリックは、ミサイルの命中にしてやったりの声を上げる。
巨大な猿は白煙を嫌がる様に、両手をバタバタさせながら白い煙をあおいだ。
白煙が、風に流されながら徐々に薄らいでいく。
ボヤけていた怪物の顔の輪郭が、ゆっくりと浮き出てきた。
上空にいたアイスマンの青い瞳に、巨大な猿の顔が映しだされる。
巨大な猿の顔には、傷一つない。
苦しむどころか、薄ら笑いを浮かべながら、こちらを挑発している。
我々のミサイル攻撃は、全く効き目が無かった。
アイスマンは、小さく舌打ちを打つ。
怪物は、胸を叩きながら、大きな雄叫びを上げた。
三機の戦闘機は、怪物を避けるように急上昇をかけた。

「何故だ。ミサイルはちゃんと命中したのに!」

マーベリックは、声を荒げる。
嫌な予感が的中したアイスマンは、急遽作戦を変更し、急いで部下達に指示を出した。

「撤退だ。ここから撤退するぞ。こんな相手と真正面からぶつかっても、敵う訳がない」

「大尉、ちょっと待ってください。まだ、撤退するのは早すぎます」

アイスマンの耳に、興奮したマーベリックの声が聞こえる。

「マーベリック、勝手な行動は許さんぞ。おい、待て。待つんだ!」

制止するアイスマンの声を無視し、マーベリックの機体が編隊から離脱する。
マーベリックは怪物めがけて、特攻を仕掛けた。

「お猿さん。申し訳ないけど、これ戦争なんだよね」

一機の戦闘機が、巨大な猿をめがけて突っ込んでいく。
巨大な猿は戦闘機を追い払おうと、めんどくさそうに両手を振り回した。
戦闘機に、巨大な猿の掌が襲いかかる。
マーベリックは愛機のハリアーⅡを巧みに操り、神がかりな操縦テクニックで、相手の攻撃を次々にかわしていった。

「まだだ、まだ終わらんよ。そう簡単に捕まってたまるか」

その曲芸のようなアクロバット飛行は、まるで芸術のように見ているものを魅了する。
華麗で、そして軽やかだ。
アイスマンは部下の大胆すぎる単独攻撃を、ただ呆然と上空から眺めていた。
巨大な猿は、邪魔な虫を捕らえるように、戦闘機に掴みかかる。
戦闘機は、大きな手の指と指の隙間を間一髪、衝突スレスレにすり抜けた。

「行くぞ、化け物め。その醜い顔を拝ませろ」

マーベリックの叫び声が、コックピットに響き渡る。
戦闘機は、巨大な猿の顔の目の前まで急接近する。
目の前に、巨大な猿の大きな顔が現れた。
おいおい、近くから見てみると意外と愛嬌のある顔をしてるじゃないか!
マーベリックは心の中でつぶやきながら、ミサイルの発射ボタンに指をかける。

「これでも食らえ」

マーベリックは至近距離から、空対地ミサイルを撃ち込んだ。
ミサイルが直撃する。
猿の顔の周りに、白い煙がまとわりつく。
攻撃に手応えを感じたマーベリックは、機体を急上昇させて、巨大な猿から距離をとった。
巨大な猿は、白煙を振り払う。

「くそっ!至近距離からでも駄目か」

マーベリックは、上空から悔しそな声を上げた。
至近距離からミサイルを打ち込んだのに、傷一つ追ってないじゃないか。
ミサイルが直撃する瞬間、猿の顔の表面が硬い岩の様に変化したように見えたが・・・気のせいだろうか?
こりゃ、やっぱり大尉の言う通りだ。
人間の力では、到底太刀打ちできない。
はやく逃げた方が、身のためだな。
無線機から上司の怒鳴り声が聞こえてくる。
巨大な猿は、何事もなかった様に右手で軽く頭をかいた。

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