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捜査四日目
平成二十九年九月二十三日、AM8時48分
佐世保の海に巨大な魔人、二郎神が現れた。
一隻の護衛艦を従えた二郎神は、佐世保港の前で立ち止まる。
先導役の任務を終えた護衛艦こんごうの海上自衛隊員たちは、一斉に二郎神に向けて敬礼を行った。
二郎神は仁王立ちのまま、大きな目をギョロギョロと動かし、崩壊した佐世保の街を見下ろしている。
佐世保の街は、見事なまでに破壊されていた。
逃げ遅れ取り残された大勢の人々は、突如海に現れた巨大な二郎神の姿を見て、驚き目を丸くする。
すでに逃げる気力もなく、ただ呆然と港に立ち尽くしていた。
また、変なのが現れた。
もう沢山だ・・・。
皆は、更なる恐怖に慄く。
しかし、その姿を見ていた人々に、不思議な現象が起こり始めた。
少しづつ、今まで感じたことの無いような感情が心を支配していく。
心から湧き出るような幸福感・・・一体これは何なのか?
もしかしたら、この大きな魔人は我々の味方なのかもしれない。
人々は揃って海に駆け寄り、巨大な魔人の姿を見上げる。
子供たちは、特撮の巨大ヒーローを見るかように、憧れのまなざしを向けた。
人々の心に希望を生み出す、圧倒的な存在感。
その姿は、神々しい金色の光に包まれていた。
四ヶ街アーケードへ向かっていた巨大な猿は、海の異変に気がつき立ち止まる。
巨大な猿の視線が、二郎神の姿を捉えた。
二郎神も、巨大な猿を鋭い視線で睨みつけている
巨大な猿は、まるで二郎神に反応するかの様に、突然進路を変えた。
海の方へ向かって歩き出した巨大な猿は、佐世保港に隣接しているショッピングモール、させぼ六番街の前で立ち止まる。
佐世保の街を見渡していた二郎神も、海から陸へと上陸した。
佐世保の街に、巨漢同士の二体の姿が合間見える。
二体ともに全長は四十メートル以上。
体重は二人合わせて約四万トン。
二郎神と巨大な猿は、させぼ六番街の建物を境に、お互いに威嚇しながらにらみ合いを続けた。
今世紀最大の巨大生物の激突が、今、まさに繰り広げられようとしていた。
烏帽子岳署を出発した秋山警部補たちは、烏帽子岳を下ると宿泊先のホテルロータスハウスに向かって車を走らせていた。
途中で大渋滞につかまった秋山は、カーナビゲーションを使って狭い裏道をすり抜ける。
秋山の視界に、変わり果てた佐世保体育文化館の姿が飛び込んできた。
体育文化館は、巨大な猿の餌食となり瓦礫の山と化している。
その隣に建てられたホテルは、奇跡的に無傷のまま助かっていた。
秋山は急いで、ホテル専用駐車場に車を停めた。
「うひゃ~。すごい壊れっぷりですね」
車を降りた守口巡査部長が、崩壊した体育文化館に目を向け軽口を叩く。
秋山は二人の部下を従え、ホテルに向かって走り出した。
見慣れたホテルのロビーは、もぬけの殻となっている。
宿泊者たちは皆、フロントマンの誘導で安全な場所へと避難したのだろう。
誰もいないホテルは、死んだ様に静まり返っていた。
「秋山さん、エレベーターが動きません」
困惑した表情を浮かべた五反田刑事が、秋山に声をかけた。
「多分、停電してるんだ。仕方がない、非常階段を登るぞ」
秋山の指示に、守口と五反田は顔をしかめる。
五反田は、恨めしそうに悲鳴を上げた。
「え~、八階まで階段で登るんですか。そんなことしたら、私死んじゃいますよ」
「五反田ちゃんは日ごろから食べてばっかりだから、ダイエットになって良いじゃないか。痩せられるよ」
秋山はにっこり微笑むと、勢いよくホテルの外に飛び出した。
守口と五反田も遅れて、上司の後を追う。
ホテルの裏手に、屋上まで続く非常階段が設置されていた。
三人は屋上を目指して、必死に非常階段を駆け上がった。
八階建てのホテルロータスハウスの屋上からは、佐世保市内が綺麗に一望できる。
巨大な猿が移動した場所は、見るも無残に壊滅していた。
海の方角に目を向けた秋山は、思わず驚きの声を荒げる。
佐世保港に隣接するショッピングモールさせぼ六番街を境に、巨大な猿と巨大な魔人が、仁王立ちのまま睨み合いを続けていた。
「何なんですか、あれは? もう一体、変なのが増えてるじゃないですか!」
遅れて到着した守口は、目を丸くする。
さらに遅れて息を切らしながら到着した五反田は、目の前に繰り広げられている光景を目の当たりにして、そのまま固まってしまった。
「なんか、海も真っ二つに割れちゃってますよね。えっと、もしかしてあの大魔神みたいなのが、森吉祐子の手紙に書いてあった二郎神って奴ですかね?」
「守口君、誰がどう見ても、あれが二郎神様だろう。あの神々しいお姿を見てみなさい。金色の光まで纏ってるじゃないか。彼女が言ってたことは正しかったんだ。ここから先は、僕ら人間が手を出せる領域じゃない」
秋山は、睨み合う巨大な猿と二郎神の姿を見つめながら、大きなため息をついた。
森吉祐子の証言は、全て正しかった。
やはり、巨大な猿も二郎神も、この世に存在したのだ。
彼女がくれた手紙には、美猴付きの一族の秘密は勿論、自分が顕聖二郎真君という神様を召喚する者として選ばれたと書かれていた。
これは、大川内理事長の証言とも全て一致している。
彼女は生まれたときから、美猴付きの因縁を背負っていたのだ。
二郎神が祀られている祠は、宇久島にあるという。
三村警部がこの話を信じてくれたので、本当に助かった。
彼らが彼女を宇久島まで連れて行ってくれなかったら、この二郎神の降臨はあり得なかった。
もうここから先、我々の出番はない。
天界の神様たちの世界の話だ。
いや、待てよ。
観音菩薩は夢の中で、森吉祐子と五反田恵が事件解決の最後の切り札になる、と助言されていた。
五反田ちゃんの出番って、いったい・・・?。
秋山は、怪訝そうな表情を浮かべる。
五反田に話しかけようとした瞬間、秋山の耳に異変が起こった。
突然、男の声が聞こえてきたのだ。
秋山は、キョロキョロと周りを見渡す。
ホテルの屋上には、三人のほかに誰の姿も見当たらなかった。
「おい、そこにいるのは哪吒太子じゃないか」
確かに男の問いかける声が聞こえてくる。
五反田が不思議そうに、秋山と守口に問いかけた。
「なんか、男の人の声が聞こえませんか?」
「えっ、そうなの? 僕にはそんな声聞こえないけどなぁ」
守口は、顔を曇らせる。
どうやら、彼にはこの声が聞こえないようだ。
「やっぱり、哪吒太子じゃないか。おい、そんなところで、何をしている。高みの見物などやめて、俺と一緒に戦おうではないか」
秋山と五反田は、顔を見合わせる。
秋山は、思わず五反田に声をかけた。
「いや、これって五反田ちゃんに話しかけてるんじゃないの?」
「えっ、私ですか? 私、哪吒太子じゃないですよ」
五反田は秋山の言葉に、驚きながら目を丸くする。
今度は、違う男の声が聞こえてきた。
「貴様はやっぱり哪吒太子だったのか。初めから、怪しいと思っとったわ。お前が烏帽子岳に現れた時、見つからぬように瞬時に気配を消しておいたが・・・。やはり、俺の目に狂いはなかったな」
「いや、だから私は哪吒太子じゃないですって。秋山さん、なんとか言ってやって下さいよ」
五反田は困惑した表情を浮かべながら、秋山に助けを求める。
秋山と守口は、思わず顔を見合わせた。
「なんだ。哪吒、お前は自分の事を忘れてしまったのか。観音菩薩の命を受け、お前は先に人間界に派遣されていたではないか」
「わはは、情けない話だなぁ。二郎神よ、こ奴は人間界に長居し過ぎて、天界の記憶を忘れてしまっておるわ」
「どうやら、そのようだな。哪吒太子よ、そういう事なら、そこで高みの見物でもしておれ。この俺が一人で悟空を成敗してくれる」
「言うたな、二郎神。その言葉、そっくりそのままお前に返してやるわ。哪吒の相手は、その後だ」
男どもの声は、そこで途絶える。
「いや、孫悟空の相手なんかしたくありませんよ。そもそも、私は哪吒太子なんかじゃなくて、観音様に似てるって言われたいのに・・・」
孫悟空の捨て台詞に、五反田は泣きそうな声で不満を漏らした。
秋山は呆れた様に顔をしかめる。
三人はホテルの屋上から、孫悟空と二郎神の戦いの舞台へ視線を戻した。
二郎神と孫悟空は、ショッピングモールの建物を境に、互いに威嚇しながら睨み合いを続けている。
孫悟空は、胸を叩きながら雄たけびを上げた。
二郎神は怒りの表情のまま、両腕を広げる。
二郎神を挑発するように、孫悟空が悪戯っぽくニヤリと微笑んだ。
その瞬間、孫悟空が動いた。
ショッピングモールを踏み壊しながら、二郎神に向かって飛びかかっていく。
二郎神は逃げることなく、孫悟空に掴みかかる。
巨大な二体が、がっぷり四つに組み合った。
とてつもない振動が、佐世保市内を地の底から震え上がらせる。
ついに体長四十メートルを超える巨体同士の、肉弾戦の火蓋がきって落とされた。
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