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中田真由美は、佐世保市にある総合病院の個室の椅子に腰かけている。
白壁の殺風景な部屋にはベッドが一つ。
ベッドの上には、危篤状態となり意識不明となっている妹の津上知佳が静かに眠っていた。
個室のドアには、面会謝絶のプレートがかけられている。
しかし病室には真由美の他に、二人の男性がパイプ椅子に腰かけていた。
一人は高そうなスーツに身を包んだ刑事。
日に焼けた肌に、鋭い目つきをした40代の男性だ。
その刑事は、妹の病室を訪ねてきたときに自分の名前を古賀と名乗った。
もう一人は、坊主頭でギリシャ人のように端正な顔をした男性。
真由美が、行方不明になった弟の津上邦明の消息を探して欲しいと、個人的に依頼した探偵だった。
町田探偵は、いつも通りののクールな口調で真由美に話しかけた。
「突然、押しかけてしまって、申し訳ありません」
「いえ、大丈夫です。刑事さんも一緒にいらしたということは、弟に何か悪いことでも起こったんでしょうか?」
真由美の脳裏に嫌な予感が走る。
真由美は顔を顰めながら、不安そうに町田に問いかけた。
「いえ、今日は弟さんの件で、こちらに来た訳ではありません。弟さんの行方は、未だに分らぬままです。警察も必死に捜査を続けていますが、そちらの方もまだ進展はありません」
「では、いったい何の件で・・・」
「ご確認して頂きたいものがあります」
町田は、上着のポケットから透明の袋を取り出す。
中には、ハートの形をした金色の指輪が入っていた。
「これは・・・」
「妹さんがいつも身に着けていた指輪で間違いないですか?」
「はい、たぶん間違いないです。でも、この指輪・・・何処で見つかったんですか?」
「須佐神社の敷地内に設置されている、祠の中です」
「須佐神社?」
「そうです、何か心当たりはないですか?」
「いえ、何も・・・」
真由美は眉をひそめる。
古賀が二人の話に割って入った。
「良かったら、手に取ってご確認下さい。もし、この指輪が妹さんのものという事になれば、重要な手掛かりになるかもしれません」
真由美は、古賀の言葉に無言でうなずくと右手を差し出した。
透明の袋の上から、そっと金の指輪を凝視する。
その瞬間、突然金の指輪が金色に輝きだした。
「何なんだ、これは」
驚いた古賀が、思わず声を上げる。
真由美は眩しそうに眼を閉じる。
町田は、驚き言葉を失ってしまった。
真由美が恐る恐る目を開ける。
透明の袋の中にあったはずの金の指輪は、跡形もなく消えてしまっていた。
つづく
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