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捜査四日目
平成二十九年九月二十三日、AM8時34分
海上自衛隊第一護衛隊群、第五護衛隊「護衛艦こんごう」の艦長、中野顕一等海佐は護衛艦のブリッジから、佐世保の街を眺めている。
佐世保市内は巨大な猿が好き勝手に暴れ回り、目も当てられない状況に陥っていた。
猿の化け物に、ミサイル一発でも打ち込んでやりたいが、政府からはまだ攻撃の指示は出ていない。
先程、同盟国の米国が戦闘機で攻撃を仕掛けたが、全く効き目がなかったようだ。
中野は、海の上から佐世保市の戦況を見つめながら、己の出番をじっと待っていた。
突然、護衛艦が大きく揺れ出した。
海が見る見るうちに荒れていく。
空は晴れやかな青空のまま。
悪天候ではないはずなのに・・・いったいどういう事だろう。
先程までの穏やかな波が嘘のようだ。
佐世保湾の海は、あっという間に大嵐の直撃を食らったような荒れ模様となった。
「艦長、大変です。あれを見てください」
隣で一緒に佐世保の街を眺めていた、副長の丘本二等海佐が驚きながら指をさす。
海に亀裂が入りだした。
大きなうなり声をあげながら、海流が急激に変化していく。
亀裂はどんどん幅広くなり、海が真っ二つに切り離される。
これは、夢なのか?
それとも現実なのか?
海の裂け目に、巨大な滝が現れる。
中野はナイアガラの滝が、一瞬にして目の前に現れたような錯覚に陥った。
護衛艦こんごうは、窮地に立たされている。
周りの海上にいた漁船や豪華客船はもちろん海上自衛隊の船も、次々に滝に流されていく。
中野が艦長を務める全長161m、7200t型の護衛艦こんごうも、突然姿を現した巨大な滝の底に突き落とされそうになっていた。
「このままでは、海に飲み込まれてしまう。速く、進路を変えろ。急ぐんだ」
中野は声を張り上げる。
護衛艦こんごうは、海の底に落ちるギリギリのところで船を旋回させる。
進路を変えた護衛艦は、危機一髪で事なきを得た。
「いったい、どうなってるんだ。海が割れるなんて、聞いたことがないぞ。取り合えず、危険は回避できたから良いものの・・・」
中野は二つに分断された海を眺めながら、ほっとため息をつく。
安心したのもつかの間、今度は緊急事態の警報が艦内に響き渡った。
「どうした? 今度は何が起こってる?」
中野は、困惑の表情を浮かべながら、周りを見渡す。
丘本は、慌てて部下に確認を取っていた。
「海上に巨大生物を確認した模様です。宇久島の方角から、佐世保に向かって直進してきてます」
丘本の報告に、中野は目を丸くする。
艦内に、緊張の色が走った。
中野は、宇久島の方角に視線を移す。
二つに割れた海の先に、巨大な魔人の姿が見えた。
巨大な魔人は、海の隙間に出来た真っすぐな道を、ゆっくりと歩いている。
その姿は、鎧を纏ったの武神の様に見えた。
「なんなんだ、これは。海が突然割れてしまったと思ったら、今度は魔神だ」
中野は一人呟く。
船員たちは、こちらに向かって歩いてくる巨大な魔人の姿を、ただ茫然と眺めていた。
観測用のヘリコプターOH-1が、突如現れた巨大な魔人を偵察するため、慌てて上空へ飛び立つ。
部下からの報告を受けた丘本が、中野に声をかけた。
「我が艦に、大川内防衛大臣から直々に連絡が入っております。艦長、お出になられますか?」
「大川内大臣から直々に?」
中野は、怪訝な表情を浮かべながら、小さく頷く。
受話器から、テレビで聞きなれた老人の声が聴こえてきた。
「護衛艦こんごうの艦長の中野一等海佐です。大臣から直々にご連絡頂き、大変驚いております。私に何か御用でしょうか?」
中野は防衛大臣の言葉を一字一句、聞き漏らさまいと必死に耳を傾ける。
防衛大臣のある言葉に、中野は思わず声を上げた。
「えっ、あの巨大な魔人を、護衛せよとおっしゃるのですか? あっ、はい。海は二つに割れておりますので、近づくには限界がありますが、ギリギリまでは大丈夫です。しかし・・・えっ、はい。承知致しました。やってみます」
中野は無線を切ると、思わず天を仰ぐ。
「艦長、如何なされました?」
丘本は、不思議そうに中野に問いかけた。
「あの巨大な魔人を護衛しろとの指示が出た。大川内防衛大臣の話は奇想天外すぎて、何がなんだかさっぱり分からんが・・・どうやらこの魔神の名前は二郎神と言うらしい」
「二郎神? それって、名前どおり神様なんですかね?」
「さぁ、よく解らん。大川内大臣はこの二郎神と巨大な猿を、佐世保市内で闘わせるつもりだ」
「ちょっと待って下さい。巨大な怪物同士を、街のど真ん中で戦わせるんですか? そんな事したら、佐世保の街は滅茶苦茶になりますよ」
「そんな事は、解っとる」
中野は、異議をとなえる部下に釘を刺した。
「いいか、これは防衛大臣からの直命だ。我々は、今から二郎神を護衛する」
艦長の言葉に、丘本は素早く敬礼のポーズを取ると、部下たちに大臣直命の指示を出す。
護衛艦こんごうは移動する二郎神に接近する為、進路を変えた。
聖文女子学園の大川内勇一郎理事長は、理事長室の窓から運動場を見つめている。
学園は高台という事もあり、運動場や校舎をはじめ体育館にも沢山の佐世保市民が非難場所として集まっていた。
ドアの外からノックの音が聞こえてくる。
返事を返すと、小田校長が慌てて理事長室に入ってきた。
「理事長、えらいことになりました。逃げ場をなくした人達が、続々と校内に避難してきてます。校舎、教会、体育館、全て開放してますが、もうこれ以上は流石に入りきれません」
「溢れた人達は、グラウンドで待機してもらうしかないな。それより、柚原先生はどうしてる。連絡は、まだつかないのかな?」
大川内は、険しい表情を浮かべながら問いかける。
校長は、諦めたよううに大川内の問いに答えた。
「残念ながら、学校にはまだ連絡がありませんね。こちらからの電話にも応答がありません。逆に、彼女から理事長の方に連絡はありませんか?」
「いや、全くない。佐世保市内はこんな感じだし、何か変な事に巻き込まれてなければ良いのだが・・・」
大川内は太い眉を吊り上げながら、顔をしかめる。
校長は、大川内の言葉に大きく頷いた。
「その他にも、まだ連絡がついてない職員達が何人かいます。もしかしたら、逃げ遅れてしまっている者もいるかもしれません。しかし、柚原先生の自宅は被害が出ている地区ではありませんし、きっと何処か別のところに避難しているのだと思いますよ」
「それなら良いのだが。最近、あれは様子がおかしかったからな」
「様子がおかしかった? 柚原先生がですか?」
大川内は、校長の言葉を無視して、テレビの映像に目を向ける。
画面には二つに割れた海の間を歩いてゆく、二郎神の姿が映し出されていた。
なぜか、一隻の海上自衛隊の護衛艦が、二郎神を護衛するように少し手前を渡航している。
大川内防衛大臣の直命を受けた護衛艦こんごうは、二郎神の先導役の任務に就いていた。
「あっ!これがもしかして、以前に理事長がお話しされていた・・・」
「そう、以前話していた二郎神様だ。人間界で孫悟空が暴れだした時に、天界からこの神が現れると言われている。この神を召喚出来るのは、この世では美猴付きの一族の中から選ばれた森吉裕子だけだ」
「ということは、祐子様はご無事ということですね?」
校長は、驚いたように声を上げる。
大川内は、苦笑いを浮かべながら力なく頷いた。
「そういう事になるな。多分あの秋山という刑事が、祐子を匿って宇久島に渡らせたのだろう。二郎神が祀られている祠が、宇久島にある」
「そういう事ですか。しかしそうなると、あの猿の化け物を目覚めさせた人物もいるという事になりますね。いったい誰があんな化け物の封印を解いてしまったんでしょうか?」
校長は、不思議そうに首をかしげる。
大川内はイライラしながら校長の問いに答えた。
「疑いたくはないが、我々美猴憑きの一族の中に裏切り者がいると言わざる終えない。大体の見当は、もうついているがな」
大川内は、太い眉を吊り上げながら、校長を睨みつける。
校長は困り果てた表情を浮かれながら、口をつぐんだ。
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