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捜査四日目
平成二十九年九月二十三日、AM6時58分
秋山警部補は二人の部下を引き連れて、早朝から烏帽子岳の森の中で張り込みを開始する。
捜査はいよいよ大詰め。
秋山はもちろんのこと、守口巡査部長と五反田刑事も昨夜の失態を取り戻そうと、朝から張り切っていた。
小鳥たちが朝の清々しい光を浴びて、嬉しそうに空を飛び回っている。
群れを離れた一羽の小鳥が、佐世保市の街を見下ろしながら、悠然と佇む猿岩の鼻先にとまった。
秋山は二人の部下を森奥の右手に配置し、自分は左手前に身を潜めていた。
朝から何も食べていなかった五反田のお腹が、ぐぅぐぅと鳴り続ける。
守口と五反田の二人は、秋山に許可を取ると、牛乳とアンパンを片手に軽い朝食を取った。
「私、こういうの夢だったんですよね」
五反田がアンパンにかじりつきながら、嬉しそうに守口に話しかける。
守口は牛乳を飲みながら、五反田に問い返した。
「えっ、こういうのって何?」
「張り込み中に、牛乳とアンパンを食べることです。ほら、張り込みに牛乳とアンパンは必需品でしょう」
「そんなの刑事ドラマの見すぎだって。五反田ちゃんって、ホントに何時も食べることばっかりだよね」
「はい。食べる事は私に任せて下さい」
「まったく・・・」
呆れる守口を無視して、牛乳を飲み干そうとした五反田の手が止まった。
静かな森の中から、ガサガサと草を掻き分けるような音が聞こえてくる。
朝日の木洩れ日を浴びながら、一人の綺麗な女性が姿を現した。
女性は、森の中の獣道を真っ直ぐと歩いて行く。
右手には、小さな白い封筒の様な物を持っていた。
森の奥には、石造りの古い祠が祀られている。
女性は迷うことなく森深くまで足を運ぶと、古い祠の前で立ち止まった。
秋山の合図に気が付いた五反田が、慌てて飲みかけの牛乳瓶をそっと地面に置く。
女性は石造りの祠の扉を開け、中からお札を取り出した。
「何をやってるんですか?」
秋山の声が、静寂を打ち破るかのように、森の中に響き渡った。
一羽のメジロが、男性の声に驚いたように木の枝から天に向かって飛びたっていく。
突然、後ろから声をかけられた女性は、ビクっと肩を震わせるとゆっくりと後ろを振り向いた。
「あら、刑事さん。こんな所でお会いするなんて、思ってもいませんでしたわ」
柚原慶子はニッコリと微笑んだ。
早朝の森の中、秋山警部補は柚原慶子と対峙している。
守口巡査部長と五反田刑事も、慶子を取り囲むように陣取っていた。
「刑事さん、良くここまで辿り着けましたね。何処までご存じなんですか?」
慶子は余裕の笑みを浮かべながら、秋山に話しかけた。
「大島署長は、大川内家のご親戚筋に当たるそうですね」
秋山は、にっこりと微笑む。
慶子は、大きな瞳でじっと秋山の目を見つめていた。
「大島署長が全てを話してくれました。貴女方に警察の情報を流していたのは、彼だったんですね。捜査状況がそちらに筒抜けだったので、我々も困ってたんですよ」
「何時から、情報が洩れていることを気づいていらしたんですか?」
「貴女に初めてお会いした時です。貴女は、捜査一課の刑事が佐世保に派遣されていることを、既にご存知のようでした。その時に、これは情報が漏れていると思ったんですよ」
「そういう事でしたか。私、いつも兄から、余計なことを話さない様にと、口うるさく注意されてたんですよ。こういう事になってしまうからなんでしょうね」
慶子は悪びれる様子もなく、笑みをこぼす。
秋山は、慶子の妖艶な笑みに、思わず心をうばわれそうになる。
「我々警察が掴んでいる美猴付きという情報は、本当に存在するんですね」
「まぁ、刑事さん。そんな古めかしい迷信のようなお話を上司の方にご報告されたら、きっと怒られてしまいますよ」
「ご心配なく。うちの上司は、すでにカンカンに怒ってますよ」
秋山は困ったように、顔をしかめる。
慶子は、クスクスと笑い出した。
「話を戻します。大島署長から聞き出した話はこうです。貴女は美猴付きの儀式を行おうとした。儀式には、綺麗で若い女性の生贄が必要となる。貴女は、教え子の塩田はるかと大林涼子に孫悟空が実在する話を吹き込み興味を持たせ、孫悟空に生贄として二人を差し出そうとした。間違いないですか?」
「面白いことをおっしゃりますね」
「しかし、計画通りに事は進まなかった。貴女の計画を、森吉祐子が邪魔したからです。彼女は、貴女の計画を阻止するために、生贄に選ばれた二人のクラスメイトと行動を共にした。貴女の誤算は、塩田はるかが、この話を森吉祐子に漏らしてしまったことですね」
「あの子は何故、私の邪魔をしたんでしょうね?」
「森吉祐子さんは、貴女の娘さんだったんですね。この情報は大川内家の政治的圧力により、何重にもデータの改ざんがなされていて、掴むのに大変苦労しました。私の上司が、警視庁のコネを使ってなんとか表に引きずり出してくれましたが・・・大島署長も、事実を知って驚かれてましたよ。彼は、森吉裕子の事を、大川内防衛大臣の有力な支持者の娘だと思ってましたからね。彼女は、実の母親に犯罪の様なことをさせたくなかったんでしょうね」
「まぁ、私はあの子が心配するような、犯罪に手を染めるようなことはしてませんけど?」
慶子は怪訝そうに、秋山を睨みつける。
温厚な秋山の顔が、鋭くなった。
「確かに貴女は法で裁かれるような犯罪は起こしていない。しかし、貴女のお陰で、二人の生徒が神隠しにあったように消えてしまってるんです。その責任は、充分貴女にあるんじゃないんですか。そこまでして・・・いったい貴方は、孫悟空の力を使って何をやらかそうというのです?」
秋山は強い口調で慶子を問いただす。
慶子は、小さなため息をついた。
「良く調べ上げましたね。刑事さんがお話しされた通りですよ。おとぎ話のような話ですけど、全て現実の話です。私たち大川内一族は、孫悟空を封印する美猴付きの一族として、ここまで成り上がりました。封印している孫悟空に、若い女性を生贄として差し出す。その見返りに、孫悟空から絶大な力を得るのです。ところで、私たち大川内家に伝わる金の指輪の存在はご存知ですか?」
裕子は笑みをこぼしながら、秋山に問いかける。
秋山は、大きく頷いた。
「太上老君の、金剛琢のことですね」
「まぁ!そこまで、ご存知なんですか。この指輪の秘密までたどり着けば、刑事さんも美猴付きになれますね。でも、もう手遅れですけど」
「何が手遅れなんです?」
秋山の目つきがより一層鋭くなる。
守口と五反田が、一歩前に詰め寄った。
「もっと詳しくお話をお聞きしたいですね」
後ろから、五反田刑事が口をはさんだ。
一瞬、森の中に、魔がさすような沈黙が流れる。
慶子の顔から笑みが消えた。
「新人の刑事さん、それは無理な相談です。もう時間がありませんから」
「貴女は、一体何を企んでいるのですか?」
秋山は強い口調で問いただすが、慶子はなにも答えない。
秋山の脳裏に嫌な予感がよぎった。
守口が慶子を取り押さえようと、更にもう一歩前にでる。
その時、慶子が動いた。
慶子は、先ほど祠から取り出したお札を手に取り、真っ二つに破り捨てる。
驚きながら声をかける秋山をよそに、慶子は白い封筒から金の指輪を取り出した。
「刑事さん、ここでお別れです。貴方とは、もっと早く・・・お互い若い時に会ってみたかった。これ、本心なんですよ」
慶子は秋山ににっこり微笑むと、指輪を左手の薬指にはめようとする。
その瞬間、慶子の姿が一瞬にして消えてしまった。
「消えた!」
守口が驚いて、大きな声を上げる。
五反田は驚きのあまり、人形のように固まってしまった。
秋山は、地面に落下した金の指輪に気がつき、慌てて指輪を拾い上げる。
秋山が立ち上がった瞬間、今度は突然、地面がぐらぐらと大きく揺れだした。
固まっていた五反田が、バランスを崩して倒れこむ。
守口は秋山の「地震だ!みんな、伏せろ」との指示に、ヨロけながらも地面にしゃがみ込んだ。
地面の揺れは、地底が怒りだしたようにどんどん大きくなっていく。
その直後、烏帽子岳の山中に、火山が爆発した様な爆音が響き渡った。
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