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捜査三日目
平成二十九年九月二十二日、AM11:50
大川内家の担当となった西東警部と守口巡査部長は、徳安教授との面談に向かった秋山たちを見送ると、烏帽子岳署の会議室で大川内家へ探りを入れる作戦会議を行っていた。
元々、秋山が聖文女子学園へ乗り込む予定だったが、作戦は急遽変更となる。
まず手始めに、大川内家と面識のない西東と守口のコンビで、わざと揺さぶりをかけてみようという事になった。
守口は会議室の籠ったっ空気を入れ変えようと、窓を全開に開く。
部屋の中に、心地よい森林の爽やかな香りが流れ込んできた。
「さて、どうしましょうかね。とりあえず大川内理事長に、美猿憑きの話でもふっかけてみましょうか。西東警部はどう思われます?」
守口は悪戯っぽく微笑んだ。
「う~ん。それはどうですかね。あまりにもストレートすぎませんか」
「警部、こういう時はストレートにズバっと行くのが一番ですよ。どうせ、すぐに圧力をかけられてしまって、一発で僕らは近づけなくなりますから。まぁ、秋山さんの狙いは、その先にあるんでしょうけどね」
「その先ですか・・・」
「そうです。あの人はいつも突拍子のない事を仕掛けますからね。今回も相手の懐に入りこんで、一気に勝負に出るつもりだと思いますよ」
守口は楽しそうに軽口を叩く。
西東は顔をしかめながら、窓の外に視線を向けた。
突き抜けるような青い空に、真っ白なもくもくとした雲が一つ、ぷかぷかと浮かんでいる。
西東は、不思議そうに雲を指差した。
「あの雲、位置がちょっとおかしくないですか?なんか、低空に下りてきてるような」
「あっ、本当だ。曇ってもっと上の方に浮かんでますよね」
二人は窓際から、空を見上げる。
まるで筋斗雲を連想させるような濃密な雲が、こちらを監視しているかように、青い空に浮かんでいた。
守口はスマートフォンを取り出すと、素早く雲の写真を撮影する。
その瞬間、西東のスマートフォンに捜査一課の杉本課長からの着信が鳴った。
西東は慌てて電話を受ける。
耳元に、不機嫌そうな杉本の渋い声が聞こえてきた。
「西東警部、いま何処にいる? ちょっと話せるか」
「課長、お疲れ様です。今、烏帽子岳署にいます。午後から聖文女子学園に向かうところです。何かありましたか?」
「それは丁度よかった。今すぐ、県警本部に戻ってきなさい。上からのお達しだ」
「えっ、それどういう事ですか?」
びっくりしたように西東の声が裏返る。
守口も、西東の驚きぶりに目を見開いていた。
「どうもこうもない。警部は捜査から外されたんだよ。東京から連絡がきた。それも、警視総監から直々にだ。こんなことは滅多にないから、本部長も大慌てだった」
「どうして、僕だけ外されるんですかね。僕はこの捜査から外れたくありません」
「警部。こう言っちゃなんだか、我々にとって貴方は警視庁からの大切な預かりものなんだ。この捜査に関わって、警部の経歴に傷をつける訳にはいかんという事です。この事件は、相当な力を持つ権力者から横槍を喰らった。これ以上、警部を関わらせる訳にはいかん」
「しかしですね」
「しかしも糞もない。今後、この事件の捜査に絡む大川内家への接触は全面禁止。本部長はこの事件を、うやむやなまま未解決にしてしまいたいお考えだ」
杉本の大きなため息が聞こえてくる。
西東は思わず天を仰いだ。
「心配しなくていい。俺はこのまま、この事件を終わらせるつもりはない。だからこそ警部には、この事件からいったん外れてもらわんと困る。そうしないと、本部長の顔も立たんだろう」
「僕には、それしか選択枠はないんですね」
「そう不貞腐れるな。秋山からの伝言がある。本部に戻ってきたら、警視庁の人脈を使って調べてほしい事があるそうだ。こっちでも、やる事は山ほどある」
「解りました。今から本部に戻ります。色々とご配慮頂きまして、有難うござました」
西東は悔しそうな表情を浮かべながら、電話を切る。
守口は苦笑いを浮かべながら、小声で西東に話しかけた。
「どうやら僕らの動きは、完全に相手に筒抜けのようですね。この会議室の会話も、盗聴されてたりして」
守口はおどけたように軽口を叩きながら、西東にウインクを送る。
この会話も、誰かに聞かれている可能性がある。
これ以上ここでは重要な話はするなと、守口がサインを送ってきたのだ。
西東は軽くうなづいてみせた。
「守口さん。今後、大川内家への接触は、本部長命令で一切禁止だそうです。僕はこの捜査から外されました」
「そうきましたか。ここで警部と別れるのは残念ですが、望むところですよ。僕は現場で頑張りますから、警部は本部でしっかり僕らを見守っていて下さい」
「僕だけがこのタイミングで捜査から外れるのは、本当に心外です。しかし、ここで本部長の顔を潰すわけにはいきません。あとは、みんなに任せます」
西東は顔を真っ赤にしながら、会議室を出て行く。
守口は西東の寂しそうな後ろ姿を、静かに見送った。
大島署長に挨拶を済ませた西東は、烏帽子岳署の建物を出ると、白色のトヨタレクサスの方へと広い駐車場を歩いて行く。
西東はふと立ち止まると、烏帽子岳に広がる青い空を見上げた。
いったい、何処から捜査内容が漏れているのだろう。
大川内家は、僕らが動き出すことを事前に察知していた。
誰かが、逐一報告をしている事になる。
西東は顔を真っ赤にしながら、悔しそうにアスファルトで固められた地面を蹴り上げた。
「警部〜! 待って下さ〜い」
背中越しに、守口の甲高い声が聞こえてきた。
西東は慌てて後ろへ振り向く。
守口が受付にいた川頭杏里を連れて、駆け寄ってきた。
「二人とも、どうしたんですか?」
西東は不思議そうに問いかける。
守口は、息を切らしながら西東に話しかけた。
「いや、さっきスマートフォンで写した雲の写真を、川頭さんと二人で見てたんですよ。そしたら、ほら・・・」
守口は、スマートフォンを西東に手渡す。
スマートフォンの画面には、先ほど会議室の窓から撮影した雲の画像が映し出されていた。
そういえば、さっき守口君が写真を取ってたな。
西東はじっと画像を見つめている。
画像に写る風景に異変を感じた西東は、思わず驚きの声を上げた。
「なんですか、これは!」
西東は食い入るように画面に食らいついた。
見れば見るほど、頭がおかしくなりそうになる。
西東は通常ではあり得ない写真の風景に、困惑な表情を浮かべた。
「この写真・・・僕を驚かす為に、変な加工とかしてる訳じゃないんですよね」
「僕は、何もしてませんよ」
「でも、流石にこれは無いでしょう」
西東の言葉に、守口は困り果てたように黙り込む。
川頭はアヒルのように口を尖らせながら、首をかしげた。
突然、山の頂から突風が吹いた。
まるで大自然がため息を吐くように、風は烏帽子岳署の敷地内をすり抜けていく。
守口が撮影した写真には、まるで孫悟空のように雲の上に乗った一匹の日本猿の姿が映しだされていた。
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