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捜査二日目
平成二十九年九月二十一日、AM12:31
長崎県警本部捜査一課の西東翔太郎警部は、西海市の動物園「長崎サファリパーク」の園内を歩き回っていた。
二週間前から、突然消えてしまった猿の集団誘拐事件を追っているのだが、今のところ全く手掛かりはない。
それどころか、二日前に相棒の秋山警部補が一年前に佐世保市で起こった女子生徒失踪事件の再捜査に引っ張り出されてしまい、昨日から部下の守口貴彦巡査部長を新パートナーに、一からの捜査を強いられていた。
平日の昼間ということもあり、園内は閑散としている。
もう暦の上では秋の季節のはずなのに、夏の置き土産の残暑はまだ消える気配が無かった。
「本当はこういう摩訶不思議な事件は、秋山さんにやってもらうのが一番いいんですよ。あの人はどんな事件にぶち当たっても、何時も強運で乗り切っちゃいますからね」
広い園内を歩き回りながら、守口がアニメの声優の様な甲高い声で愚痴をこぼす。
西東も同意するように大きく頷いた。
確かにその通りだと思う。
自分のような理論的に捜査を進めていくタイプより、秋山のような直感に優れたタイプの刑事の方が、この事件には向いているだろう。
防犯カメラにはとんでもない映像が映しだされていた。
園内の猿が突然、一瞬で消えてしまったのだ。
確かにあの映像を見せられると、まともな捜査なんてやる意味がないと思ってしまう。
西東は途方に暮れながらも、何とか手がかりを掴もうと、今日も園内の聞き込み捜査を進めていた。
午前中からあてもなく動物園の中を歩き回っていたが、流石にこの暑さには参ってしまう。
二人はカピバラの飼育コーナーの前に設置されている自動販売機で冷たい缶コーヒーを購入すると、来園者用に設置されたの長椅子に座りこみ、軽い休憩を取った。
守口は楽しそうに歩き回るカピバラの動きを観察している。
西東は、ぼんやりと秋山の顔を思いうかべた。
秋山警部補とはコンビを組んで半年になる。
その間に色々な噂話を耳にした。
元々、西東は警視庁のキャリア組で、三十五歳の若さで警部の階級を得た。
東大出身のエリートで現場経験は殆どない。
半年前、現場でのキャリアを積む為、東京から長崎県警に転勤してきたばかりだ。
長崎県警は当初、西東に県警本部警備課長のポストを準備していたが、「事件現場の捜査を経験したい」と自ら志願し、捜査一課の現場担当を希望した。
希望通り捜査一課の配属になり、杉本課長の推薦で事件解決率ナンバーワンの秋山とコンビを組んだ。
秋山は叩き上げの刑事にしては珍しいタイプで、爽やかで人懐っこく人望も厚い。
仕事にも前向きで熱心なのだが、その独特な捜査のやり方に対する評価は賛否両論だった。
「秋山さんの捜査方法は色々と賛否両論あるみたいだけど、そんなにハチャメチャなんですか?」
西東は缶コーヒーを飲みながら、守口に問いかける。
守口は不思議そうに西東に視線を送ると、まるで自分の自慢話でもするように得意げに話し始めた。
「僕は、捜査一課に配属が決まった直後から四年間、秋山さんとコンビを組んでましたけどね。ほら、あの人は人当たりが良いでしょう。だから僕もすぐに打ち解けましたよ。ところがいざ捜査になると、すごく強引になるんです。直感だの夢のお告げだの、突然訳のわからない事ばかり言い出して、こっちは振り回されっぱなしですよ。でもですね、それが何時も大当たりして事件を解決してしまうんです。もう、あんなの誰にも真似できませんから」
「夢のお告げって何ですか?」
「そうですよね。突然、夢のお告げとか言われても、納得できませんよね。この人についていって大丈夫なのか?って、正直不安になりますよ。でも、それが当たっちゃうんですから、訳が分かりませんよ」
「僕もこの半年コンビを組んで、秋山さんが直感で事件を一発解決するところを見たことありますけど・・・あれは本当なんですかね」
西東は疑心暗鬼な表情を浮かべる。
「西東警部、そんなことを真剣に考えてたら駄目ですよ。あの人は特殊なんですから。まぁ、人一倍努力はしてると思うんです。だから、みんなが見落としてしまうような解決のヒントを、見逃さないのかも知れませんね。それに、あの糞真面目な杉本課長が、秋山さんを絶対的に信頼してますからね。そりゃあ、周りも何も言えませんよ」
「でも、僕にはやっぱり信じられないなぁ。だってそんな事って、長くは続かないでしょう」
「西東警部はまともなんですよ。それが普通の人の考え方ですって。でもですね、僕は四年間コンビを組んでみて、あの人の直感を信じるようになりました。やっぱりこの世の中には、目に見えない不思議なこともあるんだと思っちゃったんですよ」
守口は微笑みながら、缶コーヒーを一気に飲み干した。
時間はお昼の十二時を超えている。
食事を取ろうという事になり、二人は園内のレストランに向かって歩き出す。
その直後、西東のスマートフォンの着信音が鳴り響いた。
さっきまで散々噂をしていた秋山からの着信である。
西東は着信相手を確認すると、驚きの表情を浮かべた。
「秋山さんからですね」
「うぁ、本当ですか? あの人、さっきの噂話に感づいたんじゃないですか。今頃くしゃみ連発してるはずですから」
守口は軽口を叩く。
西東は苦笑いを浮かべながら、慌てて電話を取った。
「警部、お忙しいところ済みません。実はちょっと調べて欲しい事があるんですが」
秋山の爽やかな声が聞こえてくる。
守口は、興味津々に西東の顔を覗き込んでいた。
「何かありましたか?」
「実は、長崎サファリパークから猿が消えてしまったあと、園内の何処かに特殊な獣の毛が落ちてなかったか調べて欲しいんです」
「特殊な毛ですか?」
「そうです。もしかしたら、猿が消えた場所の近辺に落ちてるかも知れないんです」
「それ、事件に関係あるんですかね?」
「多分見つかれば、大きな手がかりになると思いますよ。あくまでも僕の直感なんで、何も根拠は無いんですけど」
「分かりました。今からあたってみます」
「有難うございます。あと、守口君が側にいたら、お電話を変わって頂けますか?」
秋山の声に西東は思わず守口と目を合わせる。
西東は慌てて守口にスマートフォンを手渡した。
「秋山さん、どうかしましたか? えっ、もし特殊な毛が見つかったら、科捜研に送って欲しい?」
守口が秋山と話し込んでいる。
どうやらこの件には、科捜研も絡んでいるようだ。
西東は、秋山の言葉を思い出す。
彼は直感と言っていた。
それなら、その提案に乗ってみるのも一つの手だ。
直感や夢のお告げなんて、とても信じられないけれど・・・。
西東は小さなため息をつく。
電話を切った守口が、話しかけてきた。
「秋山さんが、何かひらめいたみたいですね。どうせ僕らも打つ手が無いんだし、取り合えずこのまま乗っかっちゃいましょうよ」
守口は、悪戯っぽく微笑んだ。
西東と森守口は園内のレストランで食事を済ませると、秋山の提案どおり、事件発生後に特殊な獣の毛を見た者がいないか、聞き込みを始めた。
園長に相談したところ「それなら、清掃係に確認を取った方が良い」と勧められ、主に猿が消えた場所の清掃を担当している清掃係に話を聞くことにした。
二人は事務所の応接室に通される。
五分ほどして、七十過ぎの小柄な男性職員が姿を現した。
園長の説明では、長崎サファリパークのオープニングから清掃係を担当している勤務歴三十七年の古参のスタッフとの事。
紺色のニューヨークヤンキースの帽子をかぶり、NASAの宇宙飛行士のような鮮やかなオレンジ色のつなぎの作業服に身を包んでいる。
清掃の仕事で、日々太陽に照らされていたのだろう。
深いシワが多く刻まれた顔は、真っ黒に日焼けしていた。
老人は、大きな目をぎょろぎょろとさせながら、刑事たちの顔を興味津々に見つめている。
帽子を脱ぐと小さな体を屈めながら、刑事たちに深々と頭を下げた。
彼は名前を、金子と名乗った。
金子は事務所のパイプ椅子に勝手に腰かける。
西東が口を開こうとした瞬間、金子が突然、聞いてもいない動物園のことを語りだした。
「刑事さん、私はここの動物園にオープンの時から働いております。ここには大型の肉食動物はおりませんが、カピバラやリャマやマーラをはじめ沢山の可愛い動物たちが、飼育されておるんですよ。そうそう、カバのモモちゃんをご覧になられましたか? あれは、日本で初めて人工哺育されたカバです。あの子は人間に育てられたため、池に戻っても水を恐れて泳げなかったんです。そりゃもうスタッフみんなで心配したもんで・・・」
「あの、金子さん。お話し中に申し訳ありません」
西東がたまらず話をさえぎる。
守口はポカンと口を開けたまま、金子のマシンガントークに呆気に取られていた。
この老人をこのまま自由にさせておくと、一時間はゆうに一人で話続けてしまうだろう。
金子は気難しい顔に似合わず、おしゃべり好きの老人だった。
「私も、事件が発生してからこの二週間、この園内を隅々まで歩き回りました。金子さんのおっしゃる通り、ここはとても魅力的な動物園ですね。ぜひ、プライベートでも子供を連れて遊びに来たいと思ってます」
金子は、西東の言葉に満足そうに微笑む。
西東は苦笑いを浮かべながら、本題へと話を進めた。
「それでですね、今日は一つ金子さんにお聞きしたい事がありまして、お時間を頂きました」
「ほう、何でしょう?」
金子は、目をぎょろりとさせながら顔を突き出す。
その姿は、丸まった背中とシワシワの細い首のせいで、まるで年老いた亀のように見えた。
「猿が消えてしまった日、もしくは次の日でも構いません。何処かで特殊な獣の毛を見ませんでしたか?例えば、猿の檻の中でとか・・・」
「あぁ、確かに見ましたよ」
金子は、なぜか自慢げな表情を浮かべ、手をすり合わせる。
西東と守口は、思わず顔を見合わせた。
「ちゃんと何時だったかも覚えてます。あれは、猿が消えた次の日ですよ。檻の中を掃除していたら、とても不思議な毛の塊が溝の所にいっぱい落ちてました」
「えっ、マジですか?。どんな毛でした?」
西東は驚きながら、慌てて警察手帳を取り出しメモをとる。
守口は金子の顔を、じっと見つめていた。
刑事達が自分の話に興味を示したことが余程うれしかったのか、金子は上機嫌に説明を始めた。
「動物園に勤めて三十七年になりますが、あんな毛は初めて見ました。美しすぎて、思わず手に取って触ってみましたよ。針金のように固いのに滑らかな弾力性があり、色は焦げ茶色なのに光に当たると黄金に輝くんです。そりゃ、びっくりしました」
「光に当たると、黄金に輝くんですか? それ、凄いなぁ」
守口が、思わず話に食いついてくる。
金子は機嫌よく、守口の問いに答えた。
「そう、そうなんですよ。こげ茶色の毛が、光に当たったとたんに黄金に輝くんです。あれは絶対ここの動物のものではないですよ。あんな不思議な毛並みを持った動物は、ここにはおりませんから」
「その不思議な毛は、もうどこかに捨ててしまいましたか?」
西東は、金子に問いかける。
金子は、得意げな表情を浮かべた。
「とんでもない、捨ててなんかいませんよ。全部、記念に採ってあります。刑事さん達も、ご覧になられますか?」
「もちろん、拝見させて下さい」
西東警部はにっこり微笑む。
守口は、心の中で「ビンゴ!」とつぶやいた。
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