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捜査二日目
平成二十九年九月二十一日、PM12:02
「よっ、秋山君」
人込みの中から秋山を呼ぶ声が聞こえてくる。
一人考え事にふけっていた秋山は、突然の呼びかけにビクっと肩を震わせた。
秋山は、慌てて周りを見渡す。
土砂崩れの現場には、沢山の制服警官たちで溢れかえっていた。
見渡す限り、人の頭が目に映る。
そんな中、秋山の視界が顔見知りの人物の姿をとらえた。
作業中の制服警官を掻き分けながら、彼は颯爽とこちらに向かって歩いてくる。
科捜研の副所長・西喜一郎は秋山の視線に気が付くと、あいさつ代わりに軽く右手を挙げた。
西はもともと、秋山から佐世保市の事件の遺留品の再調査を依頼されていた。
この遺留品の再調査は、曰く付きの物だった。
そこに、今度は失踪中のタクシーが一年ぶりに見つかったとの連絡を受ける。
秋山が苦戦していると察した西は、わざわざ長崎市から二時間かけて現場に駆けつけてくれたのだ。
秋山は恐縮しながら、深々と頭を下げた。
「喜一郎先輩、お忙しいのに、わざわざお越し頂いてすみません」
「いや、そんな事は気にしなくていい。副所長になってから事務仕事ばかりで、丁度現場が恋しくなってきた頃だった。それに捜査一課のエース、秋山警部補の頼みなら断る訳にはいかんだろう」
西は微笑むと、タクシーの方へ眼を向ける。
鑑識班たちは、科捜研の大御所である西の姿を確認すると、慌てて敬礼のポーズをとった。
「あのタクシー、相当やばいな・・・」
西が独り言を言うように呟く。
秋山は大きく頷いた。
「尋常じゃないんですよ、潰され方が・・・。喜一郎先輩、どう思います?」
「まぁ、良く調べてみないと分からないけど、ちょっとこの世の出来事とは思えないよね」
「そうですよね。この事件、嫌な予感がプンプンするんですよ」
秋山は、顔をしかめる。
西は、興味津々に鉄板と化したタクシーを見つめていた。
五反田が、ビニールの袋を抱えて走ってきた。
「秋山さん、お弁当もらってきました~」
秋山は腕時計に目を向ける。
時刻は十二時を回っていた。
西が、不思議そうに五反田の姿を見つめている。
秋山は、慌てて五反田を紹介した。
「ご紹介します。うちの新人の五反田です。五反田ちゃん、こちらは科捜研の西副所長だ」
五反田は、慌てて敬礼のポーズをとる。
西は思い出したようにうなずいた。
「おっ! 君があの有名な新人の超能力刑事だな。二十五歳で県警本部の捜査一課に抜擢されるなんて、前代未聞。大したもんだよ」
西に声をかけられた五反田は、嬉しそうに目を輝かせた。
「有難うございます。でも、超能力なんてとんでもない。秋山さんが上に推薦して下さる時に、大袈裟に話して下さっただけですから」
「あっ、そういう事か。みんな秋山君にたぶらかされて、一本取られたって訳だな」
西は冗談めかしに、秋山に微笑みかける。
「僕は何も嘘はついてませんよ」
秋山は、思わず苦笑いを浮かべた。
五反田は自分の弁当を西に渡すと、もう一つ弁当を取りに走って行く。
西は五反田の後ろ姿を目で追いながら、秋山に話しかけた。
「今回は、相棒の西東警部とは一緒じゃないんだね」
「西東さんは、西海市の長崎サファリパークの事件で頭を抱えてますよ」
「あっ、あの事件か。もう二週間近く経つよね。まだ何も進展してないの?」
「残念ながら全く手掛かりなしですね。大体、一瞬のうちに動物園の猿達が一匹残らず消えてしまうなんて、普通じゃ有り得ないでしょう」
秋山は顔をしかめる。
西は大きく頷いた。
「それでこっちに、新人の刑事を連れてきた訳か」
「向こうには、僕の後任として守口君をやってます。西東警部と守口君のコンビなら、なんとかするでしょう」
「守口君は、秋山君のような捜査も出来るからね。でも、ああいう摩訶不思議な事件は、捜査一課の中では秋山君が一番適任なんだけどなぁ」
「厄介な事件ばっかり、僕に押し付けようとしないでください」
「あっ、バレたか」
西の言葉に、秋山は思わず吹出した。
「そういえば、秋山君に頼まれてた、獣の毛の鑑定結果が出てるよ」
西は思い出したように、メモ帳を取り出す。
秋山は嬉しそうに微笑んだ。
「えっ、もう解ったんですか? ずいぶん早かったですね」
「徹夜で調べ上げたからね。久しぶりに、なかなか厄介な鑑定だった。正直、こっちの事件も、相当ヤバそうだけどね」
西の表情が急に険しくなった。
「あの毛の正体は、いったい何だったんですか?」
「あれは、猿の毛だね」
「猿?」
「そう。猿だよ、猿。ただね、ここからが問題なんだが、あれは普通の猿の毛ではない。どうやら千年前の猿の毛のようだ」
「えっ、千年前? それ、間違いないんですか?」
秋山は怪訝な表情を浮かべた。
「うん。千年前のもので間違いない。あの毛に付着していた土や微生物の痕跡から年代を判定できる。しかしあの古い猿の毛が、何故あんな綺麗な状態で発見されたのかが、全く解らない」
西は腑に落ちないような複雑な表情を浮かべる。
「状態が良すぎるんですね」
「そう。何せ千年前の代物だからね。博物館なんかで徹底的に保存管理しても、あの状態は保てない」
「なるほど・・・」
秋山は、西の鑑定結果に納得したように頷いた。
「やっぱり、あれはただの獣の毛ではなかったんですね。喜一郎先輩に鑑定を頼んでおいて良かったです。うちの鑑識では、そこまで正確に調べあげることは出来なかったでしょうから」
「科捜研をナメてもらっては困る」
西は、機嫌よさそうに軽口を叩いた。
「しかし、これで捜査は難しくなってきましたね。あのタクシーの潰れ方をどう説明するのか。そして千年前の猿の毛が、どこで森吉祐子の制服に付着したのか。それに、何故この獣の毛だけが県警のデータベースから綺麗に消されていたのか・・・」
秋山の表情から笑顔が消える。
西は周りを一瞬見渡すと、秋山を近くに寄せ小声で囁いた。
「秋山君、この事件は気を付けた方がいい。事件のデータベースが消されてた件だけど、実はこっちの方も秘密裏に調べてみたんだ。どうやら捜査に圧力をかけた人物がいる」
「やっぱり、そっちでしたか。僕もきっと圧力がかかって消されたんじゃないかと思ってたんですよ」
「今、監察課の内務捜査官の知り合いに頼んで情報を集めているから、もう少し待ってて。この内務捜査官は、僕の同期で信頼できる奴だ。彼には大きな貸しがあるから、情報漏れは心配しなくていい。今日中には、圧力をかけた人物が特定出来ると思う」
西は、自信有り気に微笑む。
秋山は、西の相変わらずの抜け目のなさに、今更ながら感心していた。
五反田が、自分の弁当を抱えて戻ってきた。
秋山と西は弁当を食べようと、木陰を求めてタクシーの現場から目の前にある森の方へ歩いて行く。
五反田は、慌てて後ろからついてきた。
西が猿岩に気がついて、驚きながら目を見開いている。
森に入った瞬間、秋山が、急に立ち止った。
ん、猿の毛だって?
ちょっと待てよ。
保護された森吉祐子の制服に付着していたのは、千年前の猿の毛。
疾走中の塩田はるか、大林涼子が図書館で読み漁っていた本は、西遊記。
タクシーが消息を絶った場所には猿岩。
西海市の動物園から一斉に消えたのも・・・猿だった。
秋山の心の中で、イメージがどんどん広がっていく。
そうか、猿なのか。
猿なんだ。
秋山の直感が、金色の光とともに一気にひらめく。
秋山の優しそうな目が、一瞬鋭く光った。
「喜一郎先輩、ちょっと試してみたい事があります。もう一つだけ、仕事を引き受けて貰えませんか」
秋山は少し興奮気味に、西に話しかける。
「もちろん、断わる理由はない」
西は面白そうに頷いた。
つづく
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