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捜査一日目
平成二十九年九月二十日、AM14:25
森吉祐子との面会は、五階にある西病棟の通路に隣接する待合室で行われた。
待合室には、四人掛けのテーブルが四つと、数人が一緒に座れる長椅子が一つ設置されている。
大きなテレビが一台に、セルフの飲料水の器械と紙コップも設置されていた。
男性の入院患者が一名、見舞いに訪れていた二人のご婦人が、それぞれ椅子に腰かけテレビを見ている。
秋山と五反田は、左端の窓際のテーブルに陣取った。
通常、このような一般人が多数いる場所で、事件の詳細を確認することはない。
病室での面会を避けたのは、あくまでも本人を刺激しないように・・・事情聴取ではなく面談という雰囲気を作るための秋山の演出だ。
相手は高校生のため、緊張させると黙り込んでしまう可能性がある。
秋山のやり方はいつも型破りだが、新人の五反田には良い経験になるだろう。
三分ほどして、看護婦に連れらた森吉祐子が姿を現した。
江原医師の説明通り、しっかりした足取りでこちらに向かって歩いてくる。
秋山と五反田は、椅子から立ち上がると笑顔で祐子を出迎えた。
祐子は秋山が想像していたよりも、顔色も良く元気な様子だった。
透き通った白い肌に、二重の大きな目とふっくらとした頬が印象的な綺麗な顔立ち。
少し人を寄せ付けないようなキツい瞳に、秋山は一瞬、心を吞み込まれそうになった。
入院患者用の薄い水色のガウンに身を包んでいたが、大きく育った胸に高身長と、スタイルの良さも際立っている。
秋山は軽い雑談で祐子の緊張をほぐすと、本題に切り込んだ。
「森吉さん、何も思い出せないのですね?」
秋山は優しく微笑みながら祐子に話しかけた。
「はい、タクシーに乗ったのは覚えてるんですが、それいがいは何も・・・」
祐子は少し顔を強張らせる。
秋山は、笑みを絶やさず言葉をつづけた。
「大丈夫ですよ。時間が経てば、また思い出すかもしれません。その時は僕にすぐ知らせて下さい」
「はい、わかりました」
「もう一つだけ質問があるんですが、よろしいですか?」
「何でしょう」
祐子は少し警戒したように、キツい視線を秋山に送る。
秋山はその視線をかわすように、にっこり微笑んだ。
「いったい貴女たちは、タクシーに乗って何処へ向かっていたのですか?」
秋山の問いに、祐子の動きが止まった。
五反田は大きな目を丸くして、ゴクっと唾液を飲み込む。
祐子は秋山の顔をじっと見つめていた。
秋山は祐子のキツい瞳に、また心を吞み込まれそうになる。
この子の術中にハマってはいけない。
秋山は慌てて、口を開こうとした。
その瞬間、沈黙を打ち破るかのように、祐子のふっくらとした赤い唇が静かに動いた。
「それも覚えてません」
祐子は少し声を震わせながら、はっきりとした口調で問いに答えた。
彼女のクールで大人びた話し方は、可愛げはないが相手を黙らせる力がある。
秋山はワザと相手の罠にハマるふりをして、それ以上の追及を止めた。
「そういえば、森吉さんの家の宗教って何ですか?」
秋山は突然、全く違う話題に切り替えた。
「えっ! その質問、いらないでしょう」
五反田は、思わず口をはさむ。
祐子は不思議そうに、秋山の優しそうな瞳を見つめていた。
「宗派とか良くわからないんですけど、仏教だと思います。祖父の家には、仏壇のほかに観音様の仏像も祀られてました」
「そうですか。変な質問をしてすみません」
何事もなかったように、秋山はニッコリと微笑む。
五反田は、秋山の目が一瞬だけ鋭くなるのを見逃さなかった。
森吉祐子との初面談を終え病室を出た秋山警部補と五反田刑事は、江原医師に挨拶を済ませると、足早に駐車場に向かう。
次の訪問先は祐子が通う高校、聖文女子学園だ。
江原医師が二階の裏口まで、二人を見送りに来てくれた。
別れ際、秋山は江原医師に一つだけ質問を投げかけた。
「江原先生、森吉祐子さんの退院の予定は決まってますか?」
「そうですね、本人も早く退院したがってますし、あと三日ほど様子をみて決めようと思ってます」
「解りました。退院の日程が決まったら、警察にご連絡ください」
江原医師は、小さくうなずいた。
秋山は、病院の裏口から外に出る。
駐車場は外来患者の車で埋め尽くされていて、満車の状態だった。
二人は先を急ぐように、歩く速度を速める。
五反田は、前を歩く秋山に話しかけた。
「あの子は、嘘をついているようには見えませんでしたね」
「そうだね。でも、何かを隠しるようにも見える」
「どっちなんでしょう?」
「僕は、あえて嘘をついてないと信じたいな」
秋山は、何か考えるように空を見上げた。
「秋山さんって、ほんと信じやすい性格ですよね。そんなんじゃ、直ぐにコロッと騙されちゃいますよ」
五反田は意地悪そうに微笑む。
秋山は、苦笑いを浮かべた。
「確かに、昔から信じやすくて騙される方だね。でもね、最近は騙すより、騙される方でよかったと思えるようになってきたよ」
「それって、刑事としてはけっこう致命的な弱点になっちゃいますよね」
「そうでもないよ。逆に、騙される事で相手の懐に入り込み、真実を見抜ける事もあるから」
「なるほど。そういうものですか」
五反田は複雑な表情をうかべながら、車の運転席に乗り込んだ。
「秋山さん。この事件、解決しますかね?」
エンジンをかけながら、五反田は独り言のようにつぶやいた。
マツダアテンザの重厚なエンジン音が、車内にも響き渡る。
秋山の顔が、珍しく真顔になった。
「ちゃんと解決するよ」
「えっ! さっき、嫌な予感がするって言ってたじゃないですか」
五反田は心配そうに、秋山の顔を覗き込む。
秋山の顔は、いつもの爽やかな笑顔に戻っていた。
「五反田ちゃん、この事件はね。皆、行方不明って事柄にばかり気を取られてしまって、事件の本質を見失ってるんだ」
「事件の本質ですか?」
「そう、物事には必ず因果関係がある。多分、そこに解決のヒントが隠されている」
秋山は自信ありげに微笑んだ。
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