連載小説 須佐の杜ラプソディ|第二十七話「帰還」

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第二十七話「帰還」

津上邦明は、気が付くと須佐トンネルの前に倒れていた。

どれくらいの時間、倒れていたのだろう。

空の景色は赤く染められており、夕焼けがとても奇麗にみえた。

どうやら元の世界に戻ってきたらしい。

目の前には、須佐神社や小さな個人商店など、見慣れた景色が広がっていた。

津上はついさっきまで、この世界とは違う別世界にいた。

須佐神社で不思議な老人と出会い、須佐トンネルの先へと誘導された。

あの世界は、神仏が住む世界であると、安倍晴明と名乗る男性に説明されたが、その安倍晴明は、牛魔王という怪物だった。

津上は神仏をなんとなく信じてはいたが、まさか本当にその世界が存在するとは思ってもいなかった。

天帝の住む神殿で、神獣たちの戦いを見ていたところまでは覚えている。

その後、白い巨大な竜が上空から落下し地面に叩きつけられた瞬間、その衝撃の大きさに爆風が吹き荒れた。

そこから先の記憶がないのである。

津上は立ち上がり、恐る恐るトンネルの方へ振り向く。

トンネルの先は、高天町の風景が遠くに見えた。

「津上さんですか?」

突然、後ろから声をかけられた。

津上は慌てて声の方へ目を向ける。

トンネルの入り口に向かって二人の男が歩いてきた。

「佐世保署の古賀といいます。こちらは、探偵の松田さんです」

松田と呼ばれた男は、ギリシャ彫刻のような整った顔をこちらに向け、軽く会釈した。

「警察と探偵さんが二人おそろいで、僕に何の御用でしょう?」

津上は顔をしかめ二人に問いかける。

古賀は、日に焼けた顔に薄っすらと笑みを浮かべながら、問いに答えた。

「貴方を探してたんですよ。貴方のお姉さまより警察に捜索願が出されまして・・・。松田探偵事務所にも、同様の依頼があったそうです。我々は、たまたまある情報が元となり、一緒に捜査を進めることになりましてね。はれて、貴方を見つけ出すことに成功したというわけです」

「捜索願い?そもそも、僕は失踪した訳でもないのに、なぜ捜索願いが出されてるんですか?」

「失踪していない?」

古賀の表情から笑顔が消える。

二人の会話に耳を傾けていた松田が、口をはさんだ。

「失踪していない?では、貴方はこの一か月間、仕事を休み、家にも帰らず、いったい、何処で何をしていたんですか」

「えっ」

津上の顔が驚きの表情に変わる。

この二人は何を言ってるのだろう?。

今、一か月と言ったような気がする。

「あの、今日は何月何日なんですか?」

津上は怪訝そうに古賀に問いかける。

古賀は鋭い目つきで津上をにらみつけた。

つづく

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やまの みき (著)
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