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捜査一日目
平成二十九年九月二十日、PM15:16
二人を乗せたマツダアテンザが、聖文女子学園に到着した。
五反田は、赤いレンガ作りの校門を通過すると、敷地内の広い駐車場に車を停める。
烏帽子岳の中腹に建てられた校内から見下ろす風景は、目を見張るような軍港の街の佐世保らしいロケーションが広がっている。
校内のフェンスの先には、佐世保市の繁華街、米海軍基地や造船所のドック内の風景・・・そしてその先には、佐世保港と海上自衛隊の護衛艦が浮かぶ青い海が広がって
いた。
歴史を感じさせる校舎は、四階建ての一般的な長方形の白い建物で、一階に事務室と職員室や理事長室、二階には図書室や生徒指導室、生徒たちの教室は三〜四階に
設置されている。
中庭には、御神木のような大きな杉の大木が植えられており、校舎の右隣には、ゴシック調に建築された白い教会が建てられていた。
どうやらこの学校は、ミッションスクールのようだ。
車から降りた二人の刑事は、足早に校舎に向かって歩き出す。
校舎の後ろ側には、壮大な烏帽子岳がそびえたっていた。
秋山は、歩きながら頭の中で思案する。
ここからは、猿岩は見えない。
考えすぎだろうか。
佐世保市に来てから、ずっと誰かに監視されているような気がする。
それも、とてつもなく大きな存在感を持った誰かに。
大きな存在感・・・。
烏帽子岳? それとも猿岩?
そんな馬鹿な。
いくら何でも、山や岩に監視されている訳がない。
秋山は、自分の可笑しな考えに苦笑いを浮かべる。
五反田は、相変わらず興味津々に学校の周辺を見渡していた。
聖文女子学園では、大川内理事長が秋山と五反田を手厚く出迎えてくれた。
理事長室まで案内してくれた、小田校長も同席している。
秋山と五反田は、丁寧なもてなしに感謝した。
大川内は、この学園の四代目の理事長とのことである。
この部屋には、歴代の理事長の写真が額縁に飾られていた。
初代の興三郎氏は元佐世保市長、二代目の勇人氏は元県議会議員、三代目の睦郎氏は国会議員と政治の世界でも活躍している。
しかし四代目の理事長となったこの四十代後半の男性は、政治家というよりは、器の大きい会社経営者のような雰囲気の持ち主だった。
秋山は、大川内に事件に巻き込まれた生徒たちの印象を聞いてみたが、全く現場にタッチしていないため生徒達との接点も少なく、たいした答えは返ってこなかった。
大川内理事長と形式的な挨拶を終えた秋山と五反田は、通路手前の職員室へと移動する。
職員室では、失踪した生徒、塩田はるかと大林涼子、そして意識を取り戻した森吉祐子の担任だった柚原慶子と面談した。
慶子は四十代とはとても思えない程の美しい容姿の持ち主で、白い肌に、潤んだ大きな瞳がとても印象的な女性だ。
白いワンピースがとても似合っている。
その上に、紺色のレースのボレロを羽織っていた。
身長は高くはないが、育ちの良さが滲み出た、女の色気がぷんぷんと漂ってくる。
街ですれ違った男たちは、思わず振り向いてしまうに違いない。
多分・・・いや完全に、男性を手玉に取ってしまうタイプだ。
挨拶を交わした瞬間に相手を細かく分析している秋山でさえ、彼女の魅力に引っ張られそうになる。
この相手のペースに、はまってはいけない。
秋山は自分の心に、強く言い聞かせた。
「長崎県警本部捜査一課の秋山です」
秋山はニッコリ微笑みながら名刺を取り出す。
「二年生の学年主任の柚原です」
慶子は白く細い指先で名刺を受けとると、大きな瞳でじっと秋山の顔を見つめていた。
「柚原先生。お時間を頂いて申し訳ありません。少しお話をお聞きしたいのですが」
「警察の方には、一年前にすべてお話ししましたが、ほかに何か?」
慶子の問いに、秋山は小さくうなずいた。
「そんな、かしこまったお話ではありません。雑談で結構なんです」
「雑談?」
慶子は不思議そうな表情を浮かべる。
「そうです。僕の聞き込みは、いつも雑談みたいなもんですよ。でも雑談から得られる情報の中に、重要な捜査の糸口が見つかる場合もありますから」
「そういうものなのですか?」
「そういうものです」
秋山は、人懐っこい無邪気な笑顔を見せる。
秋山の笑顔につられて、慶子もにっこりと微笑んだ。
「で、どんな雑談をされたいのですか?」
「そうですね。例えば、宗教のこととか」
「宗教?」
慶子は、首を傾げた。
「僕の実家は、浄土真宗の西本願寺派です。まぁ、お寺に顔を出すのは、身内が亡くなった時くらいですが」
「私は、カトリックです。元々うちの家系はカトリック教徒で、子供の頃に洗礼を受けました。私自身もミッション系の高校と大学を卒業しています」
「そうでしたか。ミサなどにも、顔を出されるのですか?」
「もちろんです。毎週日曜日は教会へ通ってます」
秋山は一瞬、五反田と目を合わせる。
五反田は、二人の会話を必死に書きとっていた。
「柚原先生って、男性にモテるでしょう」
「そんな事ありませんよ。刑事さんこそ、おモテになられるのでは?とても甘いマスクをしてらっしゃいますから」
「若いころは少しはモテたんですけどね。今ではからっきし駄目です」
「ご結婚はされてるんですか?」
「既婚者です。子供には恵まれませんでしたが・・・。先生は、ご結婚されてるんですか?」
「バツイチです。私は娘が一人おります。元の主人が親権を持ちましたので、一緒には住んでおりませんが」
「そうでしたか」
「あの・・・秋山さんって、刑事さんにしては珍しい方ですよね。実は捜査一課の方がおみえになるってお聞きして、どんな方がいらっしゃるのかとドキドキしてたんです」
「確かに刑事の中では変わってる方だと思います。まぁ、こんなちゃらんぽらんな刑事も、一人や二人はいないと組織のバランスが取れませんからね」
秋山は苦笑いを浮かべながら、隣に立っている五反田に相槌を求める。
慶子はクスクスと笑い出した。
「私には、馬鹿なふりをしてるように見えますが」
「それは買い被りですね」
秋山は、照れ臭そうに頭をかいた。
「ところで、事件について一つだけ質問させて下さい。失踪事件前に、三人の生徒の行動に何か気になる事はありませんでしたか?」
「特に何も・・・」
「そうですか。例えば、学校を休みがちだったとか、誰かと喧嘩していたとか」
「三人とも、別段変わったことは無かったと思います」
「では、ちょっと質問を変えてみましょう。三人の生徒に、何か共通する事柄は有りませんか?」
秋山は穏やかな口調で、質問を変える。
慶子が何かを思い出したように、赤い唇を開いた。
「そういえば・・・前にも警察の方にはお話しましたが、塩田さんと大林さんは毎日放課後に、図書館へ通って調べ物をしていました」
「図書館?。それは学校の図書室のことですか?」
「いえ、違います。市立図書館です」
「そんなところで、いったい何を調べていたんです?」
秋山は慶子の潤んだ瞳を見据える。
五反田は目を大きく見開いたまま、ピクリとも動かなくなった。
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