連載小説 須佐の杜ラプソディ|第二十三話「指輪リターン」

目次

第二十三話「指輪リターン」

「大島署長が失踪した?」

古賀警部補が驚きの声を上げる。

探偵の町田は、秋山の顔を見つめながら眉をひそめた。

「そうです。先ほど烏帽子岳署に連絡してみたんですが、この一か月間、彼は病気療養の理由で休暇をとっています」

「いや、しかしそれだけじゃ、失踪したことにはならないでしょう」

「本人と、この三週間連絡がついてないとのことです」

秋山の言葉に、古賀は口ごもる。町田が五反田刑事の方へ目を向けた。

「五反田さん、貴女はどう思います」

「えっ、私ですか?」

突然、話をふられた五反田は、驚いたように目を丸くする。

隣に立っていた秋山が、話に割って入った。

「ヒロさん、彼がキーマンでしょうね。何かしらこの事件の解決の鍵を握る人物だと思われます。でもね、多分この世にはもういませんよ」

「なぜ、そう思うの?すでに何者かに消されてるとでも?」「いや、そうではなくて、彼が自主的に姿を消したんじゃないかと思っています」

「自主的に姿を消した?」

町田は不思議そうに秋山に問いかける。

秋山の優しそうな目が、一瞬だけ鋭くなった。

「そうです。自主的に姿を消してますね。彼の住んでいたマンションはもぬけの殻でした」

「逃げたのか」

古賀警部補が、悔しそうに舌打ちを打つ。

秋山の隣で目を丸く見開いていた五反田が、突然、鳥居の方へ視線を向けた。

変な着物を着た老人が、朱色に塗られた鳥居をくぐり須佐神社の境内を歩いている。

老人は、四人が立ち話している、駐車場までゆっくりと歩を進めた。

「ここにおったか、秋山警部補」

老人は四人の前で立ち止まると、秋山に向かって声をかけた。

「どちら様です?」

秋山は、首をかしげる。老人は、微笑みながら右手を差し出した。

「警察が、これを探しとると耳にしてな」

四人の視線が、一斉に老人の手のひらに向けられる。

古賀警部補が、思わず割って入った。

「その指輪は・・・」

「そう、さっきあんたの目の前で消えてしまった指輪じゃよ」

「どうしてそれを?」

「あんた方二人には、この指輪はちと荷が重そうだったので、秋山警部補に託すことにした」

老人は人懐っこく笑みを浮かべ秋山に指輪を手渡す。

ハート形の指輪が、太陽の光を浴びて金色に光った。

「この指輪、もう消えたりしないでしょうね」

秋山は、面白そうに老人に話しかける。

老人は大きくうなずいた。

「あんたが持っていれば大丈夫じゃよ。消えるのはわしの方じゃ」

そう言うと、老人の姿が煙のように消えてしまった。

つづく
 

次回のお話
あわせて読みたい
連載小説 須佐の杜ラプソディ|第二十四話「神獣」 第二十四話「神獣」 牛魔王を取り逃がしたものの無事に津上知佳を救出した四天王は、津上邦明を神殿の中心部にあたる本殿へと案内する。 本殿の中は、中央に広い空間が...
 

五月のマリア Kindle版
西洋文化の漂う、坂の街、長崎市。余命三ヶ月と宣告された秋山は、偶然訪れた神社で、「龍神の姿を見た」と語る女性と出会う。
片や1980年代、高度成長著しいバブル絶頂の大分市。中学二年生の卓也は、仲間たちに囲まれ、楽しい学校生活を過ごしていた。そんなある日、彼は幼馴染の部屋で衝撃的な場面を覗き見ることになる。
二つの物語が重なり合う時、この物語は驚愕のラストを迎える。

やまの みき (著)
  • URLをコピーしました!
無料でお知らせ掲示板に書き込む

イベントやお店、サークルのお知らせ掲示板へ無料で投稿できます。ぜひ投稿してみてください※無料で1投稿

詳しくはこちら>>フリープランのお知らせ

ライターになって地域を盛り上げる

佐世保エリアの最新情報や、させぼ通信でまだ取り上げてないお店やスポットの情報を書いてみませんか?

詳しくはこちら>>ライター募集

目次