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神殿の中に案内された安倍晴明と津上邦明は、長い廊下を歩いていく。
人ごみでごった返していた境内とは違い、神殿の奥は静まり返っていた。
「こちらのお部屋で、弁才天がお待ちかねである」
案内役の迦楼羅王の言葉に、晴明は小さく頷いた。
「どうぞ、お入りなさい」
襖の向こう側から、女性の声が聞こえた。
晴明はそっと襖を開ける。
広い室内の中央に、煌びやかな着物を身につけた美しい女性が座っていた。
晴明はお辞儀をして、足音を立てないようにすり足で部屋の中に入っていく。
津上も慌てて一礼すると、晴明の後に続いて部屋に入った。
その女性は琵琶を手に持っていた。
女性がバチを一振りする。
琵琶が「べん」と綺麗な音色を奏でた瞬間、襖がぴしゃりと閉まった。
広い部屋はお香の心地よい香りで満ち溢れている。
女性は津上の顔をじっと見つめると、懐かしそうに口を開いた。
「久しぶりですね。今は津上殿とお呼びすればよろしいのかしら?」
突然名前を呼ばれた津上は、オロオロしながら晴明に助けを求める。
晴明は涼しそうな笑顔を見せると、女性に話しかけた。
「弁才天様、大変ご無沙汰しております。相変わらず、お美しい」
「まぁ、そんなに褒めて頂いても、何も出ませんよ。しかし・・・はて?、そなたはどちら様でしょうか?」
「えっ、何をおっしゃいますか。安倍晴明でございますよ。私の顔をお忘れになられましたか?」
晴明は慌てて問いかける。
弁才天は何かを思い出したように微笑んだ。
「あぁ、陰陽師の」
「そうです、安倍晴明でございます」
晴明は、ほっとしたように笑みを浮かべた。
その瞬間、突然入り口の襖が開いた。
津上は、思わず襖の方へ目を向ける。
部屋の外に甲冑に身を包んだ四人の大男が立っていた。
神殿までの道中の護衛を担当した増長天の姿も見える。
晴明がすかさず声をかけた。
「これは、これは四天王お揃いで。津上様の妹君は見つかりましたかな?」
四人の男たちは、晴明の問いに答えず,部屋の中に入ってくる。
丸い兜を被った大男が、津上の前で立ち止まった。
「おぉ、恵岸ではないか。元気にしておったか?」
津上は、意味が分からず首を傾げる。
増長天が口を挟んだ。
「多聞天、恵岸行者は下界での生活が長すぎて、こちらの記憶を忘れておる。さっきの妹君もそうであったであろう」
「うむ、確かに妹の貞英もそうであったが、恵岸までも父親のわしの顔を忘れておるとは・・・」
多聞天は思わず顔を顰めた。
つづく
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