連載小説 須佐の杜ラプソディ|第十五話「四天王、現る」

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第十五話「四天王、現る」

津上知佳は、八畳の和室の一室に一人。

座布団の上で、静かに物思いにふけっていた。

入院先の病室に現れた不思議な老人に連れられて、病院から抜け出した。

須佐トンネルでは「護衛を担当する」という烏帽子岳署の警察署長と名乗る人物に出会い、この屋敷に連れてこられた。

トンネルを抜ける直前、なぜかアイマスクの着用を義務付けられ、何処に連れてこられたのか検討もつかない。

案内された和室の床の間には、水牛が描かれた水墨画の掛け軸が飾られていた。

水墨画の水牛の顔をじっと眺めてみる。

この顔は誰かに似ている・・・。

知佳は首を傾げながら、その人物が誰なのか思い出そうとする。

「あっ」

知佳は思わず小声を上げた。

そう、その水牛の顔は、烏帽子岳署の署長と名乗っていたあの男性にそっくりだった。

二階の窓の外から、窓ガラスを叩く音がした。

知佳は驚いて窓の外に目を向ける。

窓の外で、甲冑を着た四人の男たちが部屋の中を覗きこんでいた。

四人の姿が、突然消えた。

知佳は、見間違えたのかと瞬きをする。

その瞬間、金色の光に包まれたかと思うと、甲冑に身を包んだ四人の大男たちが、いつの間にか知佳の周りを取り囲んでいた。

「津上知佳殿で間違いないかな」

丸い兜を被った大男が、知佳に声をかける。

知佳は、恐る恐る口を開いた。

「はい、そうです。貴方は?」

「拙者は須弥山を守護する四天王の一人、多聞天と申す」

「四天王?多聞天?」

「そなたの世界では、毘沙門天とも呼ばれておるがな」

「あっ、その名前は聞いたことあります。仏教の神様ですよね」

知佳は驚いたように目を見開く。

多聞天と名乗った大男は、鋭い視線を向けたまま知佳に話しかけた。

「そなた、ここへ誰に連れて来られた」

「誰だか分かりません。小太りな男性に護衛をすると言われ、ここへ連れて来られました。出会ってすぐ、須佐トンネルの暗闇の中で目隠しをされたので、あまり顔も覚えていません」

知佳の言葉に、四人の大男は互いに目を合わせる。

知佳はとっさに掛け軸を指さした。

「その男性は、あの掛け軸の水牛の顔にそっくりでした」

「何だと!」

多聞天が声を上げる。

知佳はその大きな声に驚き体を縮こまらせた。

「その男は、何処へ行った?」

多聞天の左隣に立っていた、髪を逆立てた大男が知佳に問いかける。

知佳は、思い出すように口を開いた。

「その男性、いったん部屋の外に出たんですが、忘れ物をしたとかで部屋に戻ってきたんです。でも・・・そう、別人の顔になってましたね」

「どんな姿かね?」

「切れ長の目と赤い唇を持つ、美しい男性です」

つづく
 

次回のお話
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