連載小説 須佐の杜ラプソディ|第十一話「石猿の正体」

目次

第十一話「石猿の正体」

津上邦明は、増長天と呼ばれた甲冑を身に纏い鬼のような恐ろしい顔をした大男に護衛されながら、安倍晴明とともに神社のような大きな建物の方へ歩いていく。

津上は歩を進めながら、晴明に話しかけた。

「あの・・・増長天って、お寺に祀ってある、あの神様ですよね」

「さようでございます。四天王は千手観音さまの眷属であられる二十八部衆に属されておられます。仏様をお守りするガードマンのような役割。寺院で祀られる場合、増長天は南の方角の守護を担当するため、南側に安置されることが多いですね」

「いや、なんでその神様が、目の前を歩いてるんですかね」

津上は、困惑した表情を浮かべる。

晴明はニヤリと微笑んだ。

「津上様、そんなことより、今は怪しいものがいないか、周囲に目を配るほうが先です」

「いや、そんなこと言われても、誰が怪しくて誰が怪しくないのかなんて、全然わかりませんよ。だって、この参道を歩いている人たち、すべての人が変な恰好をしているじゃないですか」

「確かに。津上様、ここは貴方が住む世界とは違います。怪しいものを見定めるのは、正眼で見ることが必要です」

「正眼で見る?」

「そう、疑いの心をなくし、正しい眼で見るのです」

晴明は涼しい表情を浮かべ、淡々と問いに答える。

津上は、訳が分からないまま、取り合えず頷いた。

「それで、僕と妹は、なぜここに呼ばれ、いったい誰に狙われているんです?」

「なぜこちらの世界に呼ばれたのかは、私にも分かりかねます。大体の見当はついておりますが。狙われている一味は、とても厄介な者たちです」

晴明の切れ長の目が一瞬鋭くなる。

津上は、びくっと体を震わせた。

「厄介な相手とは、いったい・・・」

「斉天大聖の一味ですよ」

「斉天大聖?」

「斉天大聖をご存じないのですか? 花果山の頂にある仙石が卵を産み、その卵から生まれた石猿のことですよ」

「石猿? 猿なんですか?」

「ただの猿ではございません。西牛賀州に住む須菩提祖師に弟子入りして、七十二般の変化術を得とくし、さらに觔斗雲の法も教わって雲に乗り自由自在に飛び回るのです」

「えっ、それって西遊記に出てくる孫悟空じゃないですか」

津上は思わず声を上げる。

前を歩いていた増長天が、後ろを振り向いた。

「石猿は、釈迦如来様に五行山に封印され、動けなくなっておる。この世界に紛れ込んだのは、その孫悟空の一味の者。おぬしは牛魔王を知っておるか?」

つづく


次回のお話
あわせて読みたい
連載小説 須佐の杜ラプソディ|第十二話「須佐神社ふたたび」 第十二話「須佐神社ふたたび」 新港町にある雑居ビルの事務所を出た町田探偵は、足早に駐車場へと歩いて行った。 この界隈は、ブリックモールという古い倉庫をリノベー...
 

五月のマリア Kindle版
西洋文化の漂う、坂の街、長崎市。余命三ヶ月と宣告された秋山は、偶然訪れた神社で、「龍神の姿を見た」と語る女性と出会う。
片や1980年代、高度成長著しいバブル絶頂の大分市。中学二年生の卓也は、仲間たちに囲まれ、楽しい学校生活を過ごしていた。そんなある日、彼は幼馴染の部屋で衝撃的な場面を覗き見ることになる。
二つの物語が重なり合う時、この物語は驚愕のラストを迎える。

やまの みき (著)
  • URLをコピーしました!
無料でお知らせ掲示板に書き込む

イベントやお店、サークルのお知らせ掲示板へ無料で投稿できます。ぜひ投稿してみてください※無料で1投稿

詳しくはこちら>>フリープランのお知らせ

ライターになって地域を盛り上げる

佐世保エリアの最新情報や、させぼ通信でまだ取り上げてないお店やスポットの情報を書いてみませんか?

詳しくはこちら>>ライター募集

目次