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津上知佳は、突然、病室に現れた謎の老人に連れられて、病室を出た。
廊下で数人の看護師とすれ違ったが、誰にも声をかけられなかった。
久しぶりに外の空気を吸った。
娑婆の空間が懐かしく感じる。
外に出たのは三か月ぶりだった。
四ケ町アーケードを横切り国道を渡ると、佐世保体育文化館の方面へと歩いていく。
何処に向かっているのか気になったが、きっと須佐神社近くに住んでいる兄の所だろうと思い、黙って老人の後を追った。
ちょうど須佐神社の鳥居が視界に入ったとき、老人が知佳に話しかけてきた。
「お嬢さん、わしはあんたのお兄さんを迎えに行かなならん。すまんが、その先の須佐トンネルの中で、待っててもらえんかの」
「私も一緒に、兄を迎えに行きます」
「いや、それはまずい。こちらには、こちらの都合というものがある」
老人は、にっこり微笑む。
知佳は納得したようにうなずいた。
「分かりました。トンネルの中で待ってます」
「うむ。それがよかろう。それと、一つ忠告しておく。トンネルの中に入ったら、絶対に勝手に動かないこと。トンネルを抜けるのはわしが戻ってからじゃ。ここから先は、危険を伴うでな」
老人は早口に指示を出すと、知佳をトンネルの入り口まで誘導し、先を急ぐように須佐神社へと歩いて行った。
どれくらい経ったのだろう。
トンネルの中は、思っていたよりも暗い。
何故か、先の出口から光がさしておらず、真っ暗闇となっていた。
後ろから、足音が聞こえた。
知佳は慌てて振り返る。
女性が一人こちらに向かって歩いていた。
近づくにつれて、その姿が露わになる。
潤んだ瞳が印象的な、美しい女性だった。
女性は、目の前で立ち止まると、笑みを浮かべながら、知佳に話しかけた。
「私、柚原慶子といいます。あなたを助けに来ました」。
「ここから動くなと言われています」
「あら、そうなのですね。でももう大丈夫です。警察の方が、あなたの護衛につかれるのですよ」
「えっ、私の護衛?そんな話は聞いてませんけど・・・」
知佳はとっさに身構える。
暗闇から警察の制服を着た、小太りな中年男性が現れた。
「初めまして。佐世保烏帽子岳署・署長の大島錠次です。ここから先はとても危険です。私があなたの護衛を担当します」
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