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町田探偵事務所の町田浩之は、革張りのソファーに腰かけながら、珈琲カップに口をつける。
対面のソファーには女性が一人、緊張した面持ちで座っていた。
事務所は佐世保市新港町のショッピングモールの近くで、古い雑居ビルの二階にある。
町田は冷静な口調で、依頼人の女性に問いかけた。
「弟さんと連絡が取れなくなったのは、何時頃からなのでしょうか?」
女性は何かを思い出すように、天井に目を向けた。
「もう二週間前になります。入院していた妹が意識不明の危篤状態になった時ですから」
「警察に、捜索願は出されてないのですか?」
「出しました。今のところ、警察からは何の連絡も来ておりません」
町田は珈琲カップをテーブルに置くと、一枚の写真を手に取る。
写真には、爽やかな青年の顔が映し出されていた。
「妹が危篤になったと病院から電話があり、慌てて弟の携帯電話に連絡を入れました。でも、電波が届かない場所にあるか電源が入っていないというアナウンスが流れるばかりで」
「弟さんに、何か変わった様子はありませんでしたか? 例えば、悩みを抱えていたとか?」
「いえ、そんな事は無かったと思います。ただ・・・」
依頼人の中田真由美は、言いかけたまま思い悩むように眉間にシワををよせた。
「どうかしましたか?」
「一つだけ気になる事があるんです。弟の事ではなく、妹の知佳の事なんですが」
「危篤状態の妹さんですね?」
「そうです。妹が右手薬指にはめていた指輪が、無くなっていたんです。ハートの形をした・・・」
「その事は、警察には話しましたか?」
「いえ、まだ話してません」
「解りました。警察の捜査状況も把握しておきたいので、僕から知人の刑事に連絡してみます」
町田は元長崎県警公安課の刑事だ。
警察の動きはすぐに把握できる。
依頼人はホッとした表情を浮かべた。
しかし、この時、町田は自分が摩訶不思議な事件に巻込まれているとは思いもしなかった。
つづく
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