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佐世保のどっかでもしかしたら起きとるかもしれんワンシーン。
少しだけのぞいてみらん?
テーブルの上に置いていたみかんを手渡せば、生きた年月分少しだけ硬くなった手が優しく受けとる。私の祖母はいつもきれいに化粧をしていてとてもおしゃれだけど、今日は特になにも用事がないのでスッピンでブルーのTシャツにストレートパンツというラフな格好だ。休日はいつも寝間着で過ごす私とは比べ物にならないなと心の中で肩をすくめた。
「来週はひいばあちゃんの命日やけん集まれる人だけ集まろうって話になっとるけど、あんたは仕事どがんね?」
「休み楽勝で取れる」
「無理せんでよかとよ」
心配性の祖母はよく不安げに私を見る。大丈夫って、と付け加えてみかんを揉む手につられてわたしもみかんをもんだ。
「だってひいばあちゃんの話聞きたかもん」
ひい祖母は私が小学生になってまもなく亡くなった。もう20年近くも前の記憶の中のひい祖母は綺麗な白髪でとても優しかったまま残っていて、それより前のことはもちろん知らない。亡くなった理由さえ知らない。それでも母がいつも懐かしそうに、そして少しだけ寂しそうにひい祖母の話をするから私もひい祖母のことが知りたかった。
「ひいばあちゃん、どがん人やったと?」
「よお働きよらした」
「畑?」
ひい祖母の家は街中からずいぶん離れた山の中にあって、大きな田んぼと畑がある。家までの道は悪いし畑に降りるための短い坂道はあまりにも急で、若い私でも降りるのが怖いぐらいだ。でもそこを降りてひい祖母は毎日畑仕事をしていたという。
「そいでよお『きゃーないた』って笑いながら言いよらしたよ」
「・・・きゃーないた?」
聞いたことのない単語が飛び出して思わず聞き返すと揉んだみかんを剥きながら祖母は小さく笑った。
「そうたい、あんたは分からんったいね。今は聞かんもんね」
「どがん意味?」
「ものすご疲れた時に言いよらしたとよ」
きゃーないた、きゃーないた、頭の中で繰り返しながらひい祖母の優しい顔を思い浮かべる。どうもしっくりこなかったけど、懐かしそうな、ちょっと切なそうな顔の祖母にその顔を重ねてみたら、しっくりきてないはずなのになんとなく懐かしい感じがして、私も使ってみようかななんて思った。
こんな風にどこかで使われているかも?
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