佐世保のどっか、こがん日常。ショートストーリー「かわい子ぶりたかった私」

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佐世保のどっか、こがん日常。

佐世保のどっかでもしかしたら起きとるかもしれんワンシーン。

少しだけのぞいてみらん?

“かわい子ぶりたかった私”

 

私「お前が馴染めさ」

 
 ジョッキに半分残ったビールを煽りながら恨めしく言う私を友達は笑いをこらえて眺めている。
 
 新しくできた彼氏は他県から転勤してきたサラリーマンだ。私は生粋の佐世保人のOL。街コンで知り合った彼との関係は良好で毎日が楽しい・・・は、ちょっと言いすぎな気もするけど、まあまあ仲は良いと思う。

 そんな彼氏の前ではかわい子ぶりたい私はきつめの佐世保弁で話す素の自分をそっと封じ込めて、お淑やかな女性を演じている。イントネーションはどうにもならないから諦めていたけど、標準語に近づけるように日々努力していた。だけどある日、本当に少しだけ気を抜いてしまっていたせいで事件は起きた。
 
 場所は人気のカフェバー。窓際の席に座っていて隙間風が肌を撫でていた。
 

私「なんかちょっとすーすーすー・・・」

 
 はっと気づいたときにはもう遅い。ぽろっと零れた言葉を彼は拾い上げて半笑いで私を見ていた。
 

彼「確かにすーすーすー、するね。ここの席」

 
 冗談のつもりだというのは分かってる。だけど小ばかにしたように繰り返す彼にもやもやしたのは事実で、「恥ずかしいから言わんでよ」と標準語と佐世保の訛りが混じった言葉で突っ込んだあとに食べるパスタはあまりおいしくなかった。
 
 そして冒頭に戻るのだ。
 

私「ここは佐世保やぞ」

友達「まあ、ねえ」

私「すーすーすーなんか普通に言うやんね!?」

友達「まあ言うけど」

私「郷に従えって言葉知らんとかって」

友達「めっちゃ怒るやん」

私「半笑いで言われたら誰っちゃ腹立つやろ」

 
冷たいテーブルに頬を押し付けるように顔を伏せた。
 

私「なんか佐世保ばバカにされたごたってめっちゃ嫌やん、こがんと」

 
 ラミネートされた手書きのメニューを手に取った友達を上目で見ながら言えば、彼女は小さく頷いたあと店員さんを呼び止めるために手を上げた。
 

友達「じゃあ逆に佐世保弁教えてやったらよかっちゃない?・・・あ、レモンサワーで」

 
 がばっと顔を上げた私の顔がどう映っていたかは分からないけど、友達はぶはっとふきだした。
 

私「そいよかね!」

友達「じゃあまずはこいば教えてやらんばっちゃない?」

 
二人同時にそっと腕をさする。
 

「「すーすーすー!」」

 
 声を揃えて言って腹を抱えてゲラゲラ笑っているところを少し不思議そうに店員さんが眺めていたことを私たちは知らない。
 

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